雨、晴れに隠れて
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この高校に決めたのは、女子高が楽しそうだったのと、あと水泳とマラソン大会がないことが決め手だった。
あと、地元から離れてるし祥ちゃんとの噂を知っている人も少ないと思ったから。
こんな理由だけど、私は行くならここしかないって思って、学力もレベルが高い高校だったけど、もう必死で勉強した。
今までもこれからも、あんなに努力したのはこの時だけかもしれない。
そして、努力が実って無事に念願の高校へ入学したんだ。
「合コン決定だよ!」
と彩は教室に入るなり言うと、後ろの壁にある黒板にカツカツとなにやら書き始めた。
「ほんとぉ!?」
私は慌てて彩のもとに駆け寄った。
その黒板には、合コン開催!の大きな文字の下に日にちと合コン相手、合コン参加者が何件か書いてある。その一番下に彩は書き足していた。
「瀬奈、おはよ。やっと、ここに書けたよ。」
彩は普通に書いただけでは足らないらしく、ぐりぐりと丸で囲んだ。
「本当にやっとだね。こんなに合コン設定日書いてあるのに、私達の名前は初登場だもんね。」
私もウキウキして黒板を見つめた。
彩とのはじまりは、クラスでの自己紹介の時。
一人一人教壇に立って自己紹介をしていて、私も緊張しながらそこに立った。もちろんクラスのみんなが私を見ている。
ましてや、目の前の席には入学式なのに茶髪で、ピアスもつけていて、入学早々先生に怒られていた子が座っている。しかも、さっきあんなに怒られたのに気にしていないのか、耳には相変わらずピアスが光っている。
「川崎 瀬奈です。」
余計に緊張をしながらも、第一印象は大事なんだから、と気合いを入れて私は自分なりにとびっきりの笑顔で名前を言った。
すると、その茶髪の子が頬杖をついたまま、私を指差して言った。
「あんた知ってる。」
「…へ?」
さっきまでの笑顔はどこへやら、きっと私はものすごく間抜けな顔をしたんだと思う。
彼女は指を差したままニヤっと笑っていた。
これが彩とのはじまり。
地元も近くて一緒に登下校してるから、毎朝、毎晩一緒にいる。
「やったぁ!合コン!女子高生らしくなってきたじゃん!」
私に続いて、駆け付けた春香は、よくやったぁ、と彩の背中をバンバン叩いた。彩は痛そうにしながらも自慢げに笑った。
春香とも入学して間もなく仲良くなった。きっかけは放課後。
その日、私と彩は教室で話をしていた。
どこでバイトをするかとか、なんてことない話だったけど、私は今日こそどうして私を知ってたのか、彩に聞こうと決めていた。
でも何度か聞こうとしたんだけど、なかなか勇気が出ない。
だって、だいだい予想がついてしまう。
だけど、どこまで話が大きくなってるのかが予想出来ないから怖いのだ。
噂っていうのは、勝手に一人歩きをしてしまう。
実際、前に聞いた時の私の噂も、耳を疑う話に出来上がっていた。
そんなふうに私が躊躇っていると、心の中を見透かしたかのように、彩は突然話を変えた。
「ってゆうか、瀬奈。」
「ん?なぁに?」
彩は教壇に立っている私を見上げながら、言った。
「どうしてあんたを知ってたか、聞かないんだね」
私は一瞬にして固まった。
「…だって、だいたいわかるもん。自分の知らないうちに、話が広まっちゃったみたいだし。」
そう言うと彩はふぅんと、気のない返事をしたけど、目線は私から外してくれそうにない。それに耐えきれなくなり、私は聞いてしまった。
「ねえ、彩はどんな話聞いたの?」
「知りたい? 中学時の友達に聞いた話は……」
そこまで言うと彩は確かめるように私を見て目を細めた。
「言っておくけど、聞いたまま言うからね。」
覚悟を決めて、私は強く頷いた。
「あたしの中学でかなり人気の先輩がいてさ。そいつ実際取り巻きもすごい多いんだけど、近寄りがたい雰囲気だから、誰も仲良くなれなかったんだよ。しかも仲良くなったら、この中学に居づらくなるし、みんな一線引いてたみたいだね」
「はぁ」
思わず気のない返事をした私に、彩は不服そうに少し睨んだ。
「なのに、そいつの周りに違う中学の女が現れて、うろちょろし始めたわけ。時々こっちの学校まで来たりしてたから、みんな騒ぎだすのなんのって。」
「……そんなに、騒ぎになってたんだ?」
「うっさいほどにね。」
さらっと彩は肯定した。
「それで、それを知った不良で有名だったの女三人組が、その女の中学に乗り込んで、呼び出したわけよ。しかも、その三人ってのは、普通に男も逆らえないような奴らでさ。」
そこで彩は一旦区切った。
ここから先が問題。
どんな話がきてもいいように覚悟を決めて、彩に先を促した。
「なのに、その女は1人であいつら相手にして、ましてや三人は逆に傷だらけされてその学校から追い出しされたんだって。そんで、そのたくましい女ってのが」
彩はあの時と同じ、頬杖と指を私にむけて
「あんた。」
と言い切った。
くらっと視界が揺れる。
思ったよりも話は悪化している。傷だらけで帰っただなんて、予想以上だ。
その時だった。
一番廊下側の先頭の席で帰り支度をしていた子が、突然ガタっと勢いよく立ち上がったのだ。
私も彩も驚いてその子を見ると、彼女は私達よりもはるかに驚いた顔で、
「まじで!?」
と私に向かって叫んだ。