涙心
□まさかまさかの
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タッタッタッタ――
桜が舞い落ちる中、短い髪をなびかせ学校へ突っ走る少女が一人。
ああ、新学期早々寝坊するなんて〜!!
昇降口に張られたクラス名簿の紙を見る。
“3年B組16番 若宮優菜”
うん、間違いない!
あたしはさっそく3年B組に向かった。
3年B組の扉の前まで来ると、教室の中からざわざわとクラスメイトたちの騒ぐ声が聞こえてきた。
どうやら間に合ったらしい。
しかし安心して取っ手に手をかけたその時、そのざわざわした中に女子たちのキャーキャー声が混ざっていることに気付いた。
扉を開けてみると――。
「「キャーーーーー!!」」
い、一体なんなの?!
とりあえず自分の番号の席に座ってみる。
するとあたしの後ろの席の子から話しかけられた。
「ねえ、凄いよね!」
「な、なんかあったの?」
「ちょ、見てみなよあれ!!」
何が何だかわからないが、その子が指差した方向を目で辿る。
その先には窓際におっかかって話をしている、赤髪と銀髪の男が二人。
もしかしてあれって…。
「丸井くんと仁王くんだよ!」
「…へえ」
「いや、“へえ”って!」
確かに学校で大人気の男テニメンバーの二人と同じクラスになれるなんて、ファンにとってはかなり嬉しいことなのかもしれない。
でもあたしはファンなわけじゃないし。
第一男に興味ない。
「もしかして興味ない感じ?」
「うーん、ないかも」
「そっかぁ。世の中には色んな子がいるもんなんだなぁ」
ふむふむと腕組みをして頷いている彼女。
なんだか面白い子。
「ねえっ、名前は?」
突然聞いてきた。
「若宮優菜だけど…」
「優菜かあ。呼び捨てでいい?」
「うん、まあ」
「あ、あたしは中城愛!よろしくっ!呼び捨てでいいよ!」
さっそくできた新しい友達、愛は、とても明るい子。
聞くと、前から仁王くんに片想いしてて、今回のクラス替えで一緒になれたことが本当に嬉しかったんだとか(笑)
愛と色々話しているとチャイムが鳴った。
と同時にさっきまではしゃいでいたクラスメイトたちは自分の席に着き始める。
愛は隣りの席の男子が席に着いたとき、
「最悪っ、隣り超キモいんだけど!」
と小声で言ってきた。
そんな愛の言葉に笑いを堪えていると、あたしの隣りの席から椅子を引く音が聞こえた。
「えっ…ちょっと…」
愛に肩をちょんちょんと叩かれ、それに反応して隣りを見てみる。
「あ…」
あたしの隣りに座ったのは、まさかまさかのあの赤髪。
丸井ブン太だった。
後ろで愛は興奮している。
「ん?お前が隣り?」
丸井に話しかけられた。
「え、あ、はい」
「ふーん。俺は丸井ブン太、シクヨロ」
「あ、若宮優菜…です」
丸井は右手でVサインを作った。
「えっ!優菜優菜ちょっとあれ!!」
「え?」
愛はさっきよりもさらに興奮して、丸井の前の前の席を指差した。
そこには愛の想い人、仁王雅治が――。
「きゃーヤバイよ優菜っ。毎日後ろから仁王くんを拝めるなんて!!」
「愛興奮しすぎ」
「なに、お前仁王のこと好きなの?」
話を聞いていた丸井は愛を見てそう言った。
「い、言わないでねっ!」
「へえ〜、いいこと聞いちゃったなぁ〜」
なんてにやける丸井。
なんだかここの席は騒がしくなりそうな…。
そしてこの日から、あたしの人生は大きく変わり始めるのであった。