そのた

□君を素直にさせる魔法
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「名無しさん」

談話室で本を読んでいると、ドラコに名前を呼ばれた。

「…何よ」

もうすぐ0時になるという時間だから少し驚いた。
談話室には他に誰もいないし、ドラコももう寝てしまったと思ってたから。


「まだ本読んでたのか」

彼は欠伸しながら、私の隣に座る。
…眠たいなら寝ればいいのに。私にかまったりせずに。


「…いいじゃない、別に」

冷たくそう言って本の文字を目で追うけれど、困ったことに全く頭に入ってこない。

…ドラコのせいよ、ドラコの。
隣にくっついて本覗き込んできたりするから。


「耳、赤いぞ」

「…う、うるさい」

態度に出さないようにって思えば思うほど、顔が熱くなるのを感じる。

「なぁ、名無しさん」

ドラコが、ページを捲ろうとした私の手をそっと握った。

「何よ…」

どぎまぎしながら横目で彼を見ると、視線がぶつかった。
ドラコの口元は少し、緩んでいた。


「僕のこと、好きか?」

…何でこんなに意地悪なのよ。
知ってるくせに、言わせようとして。

「…嫌いじゃ、ない」

私が恥ずかしげもなく『好き』だなんて言えないのも知ってるくせに。

「僕は名無しさんのことが好きだ」

自信満々にそう言うドラコとそれ以上目を合わせていられなくて、誤魔化すように視線を本に戻した。


「……私も…」

意地っ張りな私は、それ以上言えずにそのまま黙りこくってしまう。
喉元に引っ掛かったみたいに、その一言が出てこない。


するとドラコはふぅ、とため息をついて手を離した。
急に手から暖かさが無くなって、やけに寂しく感じた。


あ、もしかして怒った?拗ねた?
でも、私だって意地悪で言わない訳じゃないの…。


言い訳がましく、そんなことをぐるぐる考えて、その間のほんの少しの沈黙も辛くて。


「…好き…」


小さな小さな声で呟いた。
すぐに空気に溶けてしまいそうなくらい小さな声で。

そうしたら、ドラコが私の肩を掴んで彼の方を向かせた。

バランスを崩して、手に持っていた本が床に落ちる音がする。
あぁ、図書館の本なのに折り目着いたらどうしよう、なんて考えが一緒過ったけど、その後すぐに頭が真っ白になった。


…目を瞑る暇もなく性急に、でも柔らかくキスをされた。
触れ合った唇が、熱い。

「な、何…」

しどろもどろになりながら、離れた唇を手で覆う。
すぐ目の前にはにやりと笑うドラコの顔。


「お前を素直にさせる魔法」


君を素直にさせる魔法
(どんな魔法より強力で、甘ったるい)

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