そのた

□無音に乗せて
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キッチンに立つ彼にそっと忍び寄って、つんつんと人指し指でつついてみる。
彼は少し驚いたような顔をして勢いよくこちらを見、私だと気付くとすぐに嬉しそうな顔をした。

「名無しさんちゃん!」

やあサンジ、本読んでたんだけど急に顔見たくなっちゃって。

「俺もちょうどアリスちゃんの顔見たくなってたところさ!」

私が笑うと、彼は鍋の火を止めてこちらに向き直った。
さっきまで真剣な顔して料理してた彼が、今はでれでれと表情を崩しているのがおかしいような情けないような。

それでもサンジはかっこいいけど。

「名無しさんちゃんこそ今日もかわいいよ、君の笑顔を見るだけで荒い船旅にすさんだ心が癒されていくようさ…」


…よくそんな歯の浮くようなセリフが毎度次々飛び出すものだ。
女の子相手なら誰にでもそんな軽くてお手軽で素敵な言葉を捧げるのだから、こんなの言われたって今更嬉しいなんて感じない。

そんな上っ面な言葉じゃなくてもっとさ…


「そんな顔しないでプリンセス」

ふいに抱きしめられ、私は棒立ちのまま心臓だけがドキドキと早く動く。

「本当に愛してるのは名無しさんちゃんだけだよ」

煙草のにおいを大きく吸って、私もおずおずと彼の体に腕を回す。


「サンジ、」

少しの間出さなかった声は少しかすれてた。

「好き」

きっとこれも、声に出さなくても届いていたんだろうけど。




「…で、どうしてずっと黙ってたんだい?」

「何も言わなかったらどれくらい伝わるんだろうって思って」

「全部お見通しさ、何も言わなくても名無しさんちゃんのことなら何でも分かる」

「みたいだね…」
(嬉しいけどちょっと気持ち悪いかもしれない)

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