そのた
□懐中時計に口付け
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夜が白み始めて朝の気配が部屋の中にぼんやりと滲む午前5時。
私はそっと音をたてないようにベッドから抜け出す。就寝前に雑に走り書きした羊皮紙の切れ端を握って、右、左、誰にも気付かれていないことを確認。
この時間は談話室もがらんと寂しげで、私の忍んだ足音だけしか音は無い。悪いことをしようとしているのではないし見つかっても別段困ることはないのだけれど、できれば誰にも会わないように。手の中の羊皮紙の存在を何度も確かめる。
寮から出て、廊下も細心の注意を払っての隠密行動で進む。早朝なら先生に見つかっても減点されないだろうし(深夜と早朝の境界線は曖昧なんだもん)、今やってるみたいにコソコソしない方がきっと怪しまれないのだろうけど、秘め事はそのドキドキを楽しもうとする度胸がないとね。
「っはー、やっと着いた」
目的地に到達、一旦肩の力を抜く。
さて、どの子にしようかな。
目の前のフクロウ小屋にはウチの子も含めてたくさんかわい子ちゃんがいる。羽音を立てて警戒するのもいればぐっすり眠っているのも。
「やっぱウチの子が一番かわいいな、ハリーのとこの子もかわいいけど…でも今日は学校の子じゃないとな、不特定多数に使われてる子じゃないとな…」
緊張が少し解けたからか独り言が多くなってしまっているのに気付いて慌てて口を閉じる。一番近くにいたフクロウちゃんに配達を頼むことにして、握りしめて少ししわになってしまった手紙を託す。
「お願いね」
本当はこんな回りくどいやり方せずに今日出会ったら開口一番に言いたい言葉なんだけど、仕方ない。
さて、早く寮に戻ってちょっと早めの身支度でも…とフクロウ小屋に背を向けると。
「こんな朝早く何やってんのよ名無しさん」
会いたくない奴に会ってしまった、思わず顔が引きつる。
「あんたこそ早起きだねパーキンソン」
ふわふわした寝間着に身を包んで嫌悪の視線を私に寄越す彼女を私はライバルのようなものだと思っている。と、言っても表立って喧嘩したことなどはほとんどないし、彼と、ドラコと一緒にいるのを私が勝手に疎ましくも羨ましくも思っているだけだとも言える。
「私もう戻るからごゆっくり」
余計な詮索をされる前にそそくさとその場を後にしようとしたのに、パーキンソンに足を引っかけられてこけさせられそうになった。バランスを崩してふらふらとしながらもなんとか体勢を立て直す。
振り向いて睨むとフンと鼻で笑われた。腹が立つことこの上ない。
「誰に何の手紙を送ってたのよ」
「あんたに関係ない」
「そうかしらね?」
さっきまで手紙を握っていた方の手にじんわりかいた汗を意識してしまう。
女の勘ってこわい。彼女は私とドラコの関係の違和感に気付いているのかもしれない。
「何よ、含みのある言い方して」
「知ってる?今日ドラコの誕生日なの」
表情を変えないようにと意識するほど上手くできているのか不安になる。パーキンソンが意地悪そうににやりと唇を歪めたから尚更。
「知ってる訳ないじゃないそんなどうでもいいこと」
隠そうとするほどしゃべり過ぎてしまいそうで、どんなに頑張っても私って本当嘘が苦手だなと思った。
「あなたって毎回ドラコに突っかかるけど、なんなの?彼のこと好きなの?グリフィンドールのくせに?」
「そんなわけ、」
「ちょっと相手にされるからって調子に乗って!私が教えといてあげるけどドラコはあんたのことなんか本当に嫌ってるんだからね!いつもウザったいって、鬱陶しいって言ってるわよ!」
「分かってるわようっさいな!!」
私が叫ぶようにそう言うと、パーキンソンはびくりと体と震わせて黙った。
「だから関係ないって言ってるじゃない!ぺらぺらうっさい!」
ずっと不安な気持ちを思い切り揺さぶられた気がして思わず勢いに任せて言ってしまった。
何だか無性に腹が立ってきて呪いの一つでもかけてやりたい気持ちになったけどぐっと堪えて早足で寮に向かって歩を進めた。
今になってあんな子の言葉一つでドラコの気持ちを少しでも疑ってしまう弱い心の自分が一番苛立たしかった。