そのた
□昼下りの少年少女
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太陽の光が暖かくて、風は心地よく頬を撫でる午後2時の湖畔…隣には大好きなドラコ。こんな清々しく気分のいい日は久しぶり
でついつい朝から頬も緩みっぱなしというもの。
少々のお菓子と水筒に入れたハーブティを傍らに置いてピクニックのよう。日光を受けてキラキラと輝いて見える湖面も澄み渡った青い空もその気分を盛り上げてくれる。
「ドラコ、お茶もう一杯どう?クッキーは?」
今日はホグズミードに行ける日だから、学校にはほとんど人はいない。こうやって森の近くで湖のほとりの見えにくい位置にいれば余程波長のぴったり合った人でないと会わないだろうし、念のため気配を消す呪文もかけておいたから破ろうとされなければバレることは無い、はず。
「いや、今はいい…名無しさん」
ふいに髪の毛を一房掬われてキスされると、くすぐったいような気持ちになる。いつもと大分雰囲気が違うから解放的になっているのかもしれない。
「シャンプー、変えたろ」
「ん?うん、変かな、好きじゃない?」
前使っていたのよりちょっぴり高かったのだけれど、髪の毛の調子もいいし香りもいいから気に入っているシャンプー。だけどそんな些細なことに気付いたのは今までハーマイオニーだけだった。ドラコに気付いてもらえたのは何だかうれしい。
「いや、似合ってる」
「ちょ、ちょっとそんなに匂わないでよ恥ずかしい」
頭にキスを落としながらかわいいと耳元で呟くドラコを両手でぐいと引き離すと少し不服そうな顔。ドラコってこんなに変態っぽかったかな。
「いつ変えたんだ」
「え、っと…二週間くらい前?」
「そうか」
何故か口をへの字に曲げるドラコ。思わずちゅーしたくなったから我慢せずに実行。
「何でちょっと不機嫌そうになったのよー」
「ポッターやウィーズリーが僕より先に君の匂いに酔ったと思うと忌々しい」
反転、ドラコの向こうに蒼穹。押し倒すと同時に地面に直接頭が付かないようにハンカチを敷いてくれるところに、ドラコの紳士な部分を見た気がする。
…それにしても酔ったって。そんなによかったのかな、効果絶大じゃないの。さすがピンクのボトルに意中の彼も振り向くナンチャラカンチャラと売り文句が書いてあったやつだ。
「二人とも何も言わなかったよ?」
「言わなかっただけだろ…あいつら絶対お前を変な目で見てる」
真顔でそんなこと言われたらニヤけてしまう。
「嫉妬?ね、嫉妬なの?」
「うるさい」
ドラコの頬が少し赤くなった気がする、そうからかおうとして開いた口にキスされた。言おうとした言葉は吐息になって重ねた唇の間から漏れる。こんな脳みそ蕩けたバカップルみたいなこと学校でやってるなんてすっごいこわい。でもそれ以上にドキドキして、幸せで堪らない。
「嬉しいな、ドラコが妬いてるって分かって」
「…言わないだけでいつも思ってる」
脳みそがびりびり痺れちゃうくらい嬉しくてドラコの首に腕を回してぎゅーっと抱きしめる。もごもごと苦しいと言われたから仕方なく力を緩めてえへへと笑う。
…だけどこの時間も魔法みたいなものだ。あと数時間したら寮に戻って、次に会うときにはいがみ合うか無視するかそっけなくしなきゃいけない。段々どっちの時間の気持ちがどっちの時間の言葉が本当なのか分からなくなって不安になって、またこんな風に過ごせたら安心するけれど、いつまで続けられるのか彼の心が離れるんじゃないかって苦しくなって。
「そんな顔するなよ」
いつの間にかドラコの顔が近くにあって驚く。自信のなさそうな顔が彼の瞳に映っているのに気付いてすぐに笑顔を作ったが、こつんと額をぶつけられる。
「ご、ごめん…」
そんなに不安そうな顔をしていたのだろうか、みっともない、一緒にいられる今なのに。
「名無しさん、好きだ」
ストレートにそういう言葉をぶつけられることはほとんどなかったから一瞬頭が真っ白になった後にじんわり目頭が熱くなってきてしまう。
「わ、私も、ドラコ、好き!」
「泣くなよ、分かってる」
ぽんぽんと頭を撫でられ、滲んだ涙が止まらなくなる。言葉にしてもらわないといつまでたっても不安な私を、ドラコは困ったように笑いながら許してくれているみたいだ。こういうときたまにすごく大人っぽく思えてしまう。
ドラコは私を抱きしめて、ごろんと転がる。反転。今度は上になった私がドラコの胸に顔を埋めてもごもごと小さな声で苦しいよとかそんな不平を言う番。だけどこんな近い距離なんだもの、堪らない気持ちになってしまう。
「…幸せ、かも」
「かも?」
「ううん、すっごい幸せ」
暖かくてぽかぽかして、何だかだんだん頭がぼうっとしてきて。
…それから私は少しの間眠っていたみたいで、目が覚めたら私はドラコの腕を枕にして寝転んでいた。
どのくらいうたた寝していたのだろうか。目を擦って起き上がると同時に吹いた一陣の風に思わず目を細める。
「よく寝てたな」
「ごめんね、腕痛かったでしょ?」
こんなに近くにドラコがいたからなのか、微睡の中で見た夢はとても優しく甘かったように思う。
何時なのかを問うと、ドラコはローブから懐中時計を取り出し私に笑いかけながら見せる。3時15分、そろそろ終わる時間に切な
さを覚えながらも満足ではあった。
「…先帰っていいよ、私もう少しここにいるから」
いまからまた一緒に歩いているところを見られることも許されないような関係に戻るとしても、さっきまでのドラコの時間を独
り占めしていたことがそれをあまり苦だと感じさせなかった。だけどもう少し残り香に浸っていたかったから、ドラコの背中を叩く。
「風邪ひかない程度にしろよ、またうたた寝でもして…」
「そんな心配しなくても大丈夫だったら」
一人残った湖のほとりでもう一度仰向けに寝転がる。
一緒に帰ろう、冗談でもそう言ってみたらどんな顔をされるのだろう。
そんな下らないことを考えて目を閉じた。突然少しだけ彼に逆らってみたくなったものだから。