ジョジョ暗チ中心夢

□in the early afternoon
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「名無しさんー」

「なにー?」

私は進行形で書き進めている書類から目を離さずに、ほとんど無意識のうちに返事をしていた。


「いつ終わりそう?」

「んー、もうちょいー」

「終わったらさ、一緒にコーヒーでも飲もうよ」

「んー、いいよー」

あら、日付書いてない。
よく見たら字の書き間違いがあるし。

「…今日のパンツ何色?」

「んー、知らんー」

「やだなぁ、俺が知ってるのに名無しさんが知らない訳無いだろ?」


えぇと、後はサインだけ…よし、終わった!

ペンを置いて、思い切り背伸びする。腰のへんの骨がポキポキと小気味いい音をたてた。


「ぎゃ!」

「名無しさんの腰は細いなぁ…とっても抱きごこちがいい」

でもその色気の無い悲鳴はどうにかならなかったのか?と続けながら、メローネが腰に巻き付いてくる。
ぬるぬる動くな、気持ち悪い!


「…そう言えばさっき、変なこと聞かなかった?そんで、変な発言しなかった?」

結構な力で抱き付いてくるメローネの腕を引き剥がそうと四苦八苦しながら訊ねた。
さっきは流したけど、よく思い出してみたらセクハラ発言された気がする…いや、間違いなく。

「今日は白地に黒のレースだろ?聞くまでもなかったけど、名無しさんの口から聞きたくてさっ」

「…何で知ってるのよこの変態っ!」

力一杯頭をぐーで殴る。
でもそれが逆効果なのを思い出した時には、メローネはベネ!と嬉しそうに言っていた。

ため息しか出てこない…。
私はあきれ果てながら、腰に巻き付くメローネを引っ付けたままデスクの上をざっと片付けた。

あ、書き立てほやほやの報告書を早くリーダーに出しに行かなくては。


「離れて、メローネ。リーダーのところに行かなきゃいけないから」

「えー…ヤダ」

ぎゅっと、腰に回る腕の力が強くなる。
メローネの体温がじんわり伝わってきて、心地いい。そんなこと絶対に口には出さないけど。

「ヤダ、じゃないよ」

ぐっと身を捩ってメローネを引き剥がそうとするのに、彼ときたら力を強めたままため息をつく。
私の方がため息つきたいよ、全くもう…。


「ねぇ、俺と報告書、どっちが大事なの?」

いきなり耳元で吐息混じりに囁かれて、背筋がぞくりと震えた。

「っ…いつの時代のセリフよ、古くさい」

それにそれって、大概女が言うセリフでしょ?

うんざりしたように取り繕って言う。
一瞬焦った私が恥ずかしかったから。
私が焦ったり照れたりすることで喜ぶ変態が相手なのに。

「どっちか言うまで離さないぜ?」

こいつはきっと私を困らせて遊んでるに違いない。
こうやって、何だかんだでこいつと過ごす時間は長いのだから。


「…報告書」

「ごめん、聞こえなかった」

「報告書ー!」

「悪いな、聞こえない」

聞こえない訳ないのに。聞こえてるに決まってるのに。
メローネは可笑しそうに、クスクス笑ってる。

「もう一度聞くぞ?ちゃんと俺に聞こえるように言わないと、この場で押し倒すから」

「はぁ?」

何て自分勝手なやつなんだろう…今に始まったことじゃないけどさ!

何にせよ、選択肢は実質一つしか無いわけだ。

「俺と報告書、どっちが大事?」

…誘導尋問にわざわざ引っ掛かるのも癪に触るなぁ。
それでも、腰の辺りを撫でる彼の手つきがやらしくなってきたからそうも言ってられない。


「…じゃあメローネ」

不満げな小さい声。
それでもメローネは嬉しそうに笑う。

「ベネ!それじゃあシようか!」

「何でそうなるのよっ!」

どっちを言っても一緒なら、悩んだり照れたりする必要なかったじゃないか。
てゆうか、どっちにしても状況に変わり無いなんて詐欺だ!


私はむむっ、と口を尖らせた。

「…メローネ、」

私は力の限りで振り返って、メローネに向き合う。
少し驚いたように開かれた彼の瞳が映る。

私はぐっとメローネの首に腕を回して背伸び。勢いよく唇を重ねた。
柔らかな感触、僅かに暖かい。


「っ、これで我慢してよ!」

…私にしては頑張った!
いつもは絶対にこんなことしないから。頼まれたって、絶対にしないから。

案の定面食らったような表情のメローネを(彼のこんな顔もかなり珍しい)どん、と勢いよく突飛ばし、私は報告書を引っ掴んだ。

「それじゃ、報告書出しに行くからね!」

そのまま逃げるように部屋を出てばたばたと廊下を走る。


…唇の感触がまだ残ってる。
私は軽く指先で唇に触れながら、少しだけ顔が熱くなるのを感じた

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