ジョジョ暗チ中心夢

□最初の一歩は
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「あー…おい、名無しさん起きろ」

アジトに帰ってきた俺が目にしたのは、ソファに眠る名無しさんの姿だった。
任務明けだろうし、本当は眠らせてやりたいのだが…。

ちらりと名無しさんを一瞥して、首を振る。


「おい、起きろ」

肩を掴んで体を揺すると、うぅんと名無しさんが唸る。

「やだぁ…も、ちょっと…」

俺の声に疎ましそうにそう言って身を捩る。
だからそれがマズいんだよ、このバンビーナめ。

乱れた髪が妙な色気を醸し出しているし、捲れたタイトスカートからは白い太ももが見えている…かなり際どい。
野郎だらけのアジトでこんな無防備な姿を見せるなんて、自覚が足りてない証拠だ。

俺は大きく息を吸った。

「名無しさん!起きろ!」

「っ?!はいっ!」

びっくりしたのかどうなのか、わたわたしながら名無しさんが起き上がる。
そして寝呆け眼をごしごしこすりながら、ぼーっと俺の方を見た。

「んー…おはよう、プロシュート…もう朝?」

「まだ夕方だ…それより身だしなみをきちんとしろ。誰かさんに襲われても文句言えないぞ」

俺の指摘に名無しさんは自分の服装を見たが、何故かむっと口を尖らせた。


「…私にそんな魅力無いもん」

悔しそうにそう言う名無しさん。
それでもきちんとスカートを整えるところが素直でいい。

「誰かに何か言われたか?」

俺はむくれる名無しさんの顔を見て、訊ねた。
こいつがそんなことを気にするなんてらしくないな、と思いながら。

「…言われては、ないけど」

「魅力無いことはないぜ?」

現に、お前のさっきの格好は扇情的だった。
もちろんそれは、言わないが。


「…無いし」

胸部に手をやる名無しさん。

「『名無しさんはいつまでたっても子供だな』って」

誰の真似をしたんだか、誰にも似てなかったから分からない。

「全然、女の子っぽくないし」

そりゃ、十幾つの時からこんなとこにいりゃあ女っぽさには多少欠けるかもしれないが。


「……こんなんじゃ、駄目なの」

ぽつりと最後にそう呟いた名無しさんは、酷く寂しげだった。

俺は一つだけ、名無しさんがそんなことを気にする理由が思い浮かんだ。

「…もしかして、好きなやつでもできたか?」

名無しさんの顔がみるみる内に赤く染まる。
どうやら図星みたいだ。

俺は名無しさんの頭にぽんと手を置いて、わしゃわしゃと撫でてやる。
名無しさんはうー、と唸りながら目を瞑った。

「恋すりゃ、女はどんどん魅力的になる…心配しなくても大丈夫だ」

俺はふぅ、と息を吐いた。
名無しさんがこんなにおかしいのは、恋をしてるから、か。

名無しさんが誰かを恋い焦がれた目で見ているのかと思うと…気に食わない。
誰とも知らないやつに、名無しさんを渡したくない。

そんな思いが、じわりと胸に広がった。


「…じゃあ、」

名無しさんが上目遣いに俺を見る。

不覚にも、一瞬どきりとした。
見慣れた名無しさんが別の女みたいに見えたからだ。

「プロシュートは、私のこと抱ける?」

「はぁ?!」

予想だにしない言葉に、すっとんきょうな声が出てしまう。
どうやったらそこに行き着くのか、名無しさんの思考回路が理解出来ない。

「だってね、子供にはそんな感情抱かないでしょ?ちゃんと女だって認識されてたら、そういう気にもなるのかな、って…」

俺以上に本人のほうが慌てているらしく、必死に言葉を紡ぐ。
しまいには言わなきゃよかったというように、両手で顔を覆ってしまった。

「……やっぱり今のは、聞かなかったことにして」

本当に、名無しさんときたら。
俺の心をこんなに掻き乱すのは、お前くらいだ。


「…抱ける」

縮こまる名無しさんの耳元で囁いてやる。
名無しさんは驚いたようにびくりと肩を震わせた。

「な…慰めてくれなくても大丈夫だよ、嘘、吐かなくても…」

俺の言葉を勘違いした名無しさんが、首を振りながらそう言う。


「嘘なんか言うかよ…抱ける、抱きたい」

こんなかわいいのを、誰にも渡したくない。
仲間にだって、渡したくない。

名無しさんを繋いでおけるなら、今この場で無理矢理自分のものにしておいてもいいと思うほど。


「あ…え…それ、本当…?」

今や涙目の彼女は、震える声で俺に訊ねる。

「試してみるか?」

名無しさんの顔は、りんごと並べるとどっちがどっちか分からなくなるほどに赤い。
そんなとこがまだまだ子供っぽいが、名無しさんはそれでいいと思う。

「…プ、プロシュートなら…」

絞りだすような声。
名無しさんは潤んだ目で、じっと俺を見た。

「私ね、プロシュートに…」

その目はとてもまっすぐに俺を見て、言葉のあとに気恥ずかしそうに反らされた。

なんだ…俺も大概鈍感だったらしい。
こいつのことは、人一倍気に掛けてるつもりだったのにな。


「名無しさん…」

名前を呼ぶと、恥ずかしそうにこちらをちらりと見る。

俺は黙って、名無しさんの頬に手を当てた。柔らかくて、熱い頬。

きょとんとした表情の名無しさんに笑んでから、俺はその唇をキスをした。
軽く、触れるほどの口付け。


「…プロシュー…ト?」

目を見開いて、驚いたように俺を見る名無しさん。

「お前は十分魅力あるぜ?少なくとも、俺を惑わすくらいにはな」

名無しさんはくしゃりと顔を歪ませて、ぶんぶんと首を横に振る。


「プロシュートには、私みたいな子供は似合わない…それに、私は恋も何にも分からないから、駄目なの…」

「だったら、」

名無しさんの言葉を遮るように、俺は言った。

「俺が全部教えてやる」


知らないのなら、俺が教えてやればいい。ゆっくり名無しさんの手を引いてやればいい。

「だからまずは、ここからだな」

もう一度唇を重ねて、俺はそっと名無しさんを抱き寄せた。


最初の一歩は、ここから初める。

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