ジョジョ暗チ中心夢

□恋色パラドックス
1ページ/1ページ


そうっと、物音をたてずに。
気付かれたら駄目。

あと、1メートルくらい…。
…よし、今だっ!

「ギアッチョ大好きー!!」

ソファーで新聞を読むギアッチョの背後から飛びかかるように抱きつく。

「うおぉ?!」

案の定私の気配に気付いていなかったようで、ギアッチョは驚いたような声を出した。

大成功だ。

ギアッチョはすぐ、放せ!って怒りながら言うけど、無視。
逆に、もっと力を入れて抱きついてやる。

「あはは、ギアッチョ大好きー!」

「…名無しさん、ギアッチョが死ぬよ」

「おっと、それは困る」

調子に乗ってて気付かなかったが、どうやら首をしめていたみたいだ。
こちらの様子を見ていたイルーゾォに言われて慌てて手を離すと、ギアッチョがげほげほと咳き込んだ。

そして一拍おいて、
「殺す気かてめぇ!」
怒鳴られた。

私はあまり反省はしていないけれど、一応ごめんごめんと手を合わせて謝る。

「愛ゆえ、よ!」

やっぱり、今日もギアッチョの怒りにはキレがある。
私はそんなことを思いながら、何気なくギアッチョの隣に座った。

「何隣に座ってんだよ」

不満そうな彼の声…言うと思った。

「えー?いいじゃん、ギアッチョの隣がいいんだもん」

言いながら、ギアッチョの肩に寄りかかる。
…我ながら鬱陶しがられるだろうって分かってる。
でも、ギアッチョにかまって欲しいんだもん。

「くっつくなよ、鬱陶しい!」

肘でぐいと押されて、引き離される。あぁ、やっぱり。
私はあっさりギアッチョから離れて、立ち上がる。

「じゃあいいよー!イルーゾォのとこに行くから」

わざとつんとそう言って、えぇ?!と困惑したような表情を浮かべるイルーゾォの元に向かおうとする。

「…勝手に行きゃいいだろ」

あー、大失敗。
ギアッチョの冷たい態度に、内心がっくり。
せっかく演技してまでかまって貰おうと思ったのにな。

私は宣言通りイルーゾォの隣にすとんと座る。


「イルー…ギアッチョにフラれたー

「ドンマイ名無しさん…まぁ、いつものことじゃないか」

ぽん、と私は背中に手をおいてくれるイルーゾォだが、言葉は結構キツい。

…いつものこと、か。
確かにそうなんだけどさ!

「慰めてやりたいけど、今から仕事なんだ…名無しさん、とりあえず頑張れ」

がっくりとうなだれる私の背中を、今度はばしっと叩いて、イルーゾォは鏡の中に消えていった。

リビングには、ギアッチョと二人きり。だけど今となっては全然嬉しくなくて。

ギアッチョが新聞をめくる音だけが聞こえる。
私はしばらくギアッチョの後ろ姿を眺めていたけど、段々と虚しさが募ってきたから、リビングから出ることにした。

今思い返してみると、自分の空回りっぷりが酷く滑稽に感じた。
自分が情けなく、悲しくなる。


そろそろとリビングを出てドアを閉めたところで、目の奥がじんと熱くなった。

何だかなぁ…全く進歩の無い毎日、もう駄目なんじゃないかな。
そんなこと思うのはここ最近いつものことだけど、今日はいつもよりセンチメンタルだ。

…泣きそうになる。

しかしその時。


ごんっ!

背後のドアが勢いよく開いて、私は思い切り頭と背中を強打した。

「うぐっ!」

結構な痛みに、その場にへなへなと蹲ってしまう。
特にじんじんと痛む後頭部を押さえながら振り返ると、ギアッチョが目を見開いて立っていた。

「お、おい、そんなに痛かったかよ?!」

焦ったように私の側にしゃがんで、私の手の上にその手を重ねて頭を擦る。

「別に、そんなには…」

ギアッチョのオーバーリアクションにあっけにとられながら答える私をよそに、ギアッチョは今だに私の頭をさすっている。

「お前がこんなとこにつっ立ってるから悪いんだろーが…クソ、泣くほど痛かったのかよ?」

その言葉に、慌てて目を袖でこすった。
私の涙目を、痛くてそうなのだと勘違いしたらしい。

「なっ、泣いてないし、痛くないから大丈夫!」

すぐに泣くメンドクサイ女だと思われるのは嫌だったから、ギアッチョの手を振り払って立ち上がる。
不器用に私の頭を撫でてくれた彼の手は、少し名残惜しかったけれど。

「じゃあ…私、部屋に戻るね」

胸の高鳴りがおさまらない。
だって、ギアッチョが私に触れてくれたのは初めてだったから…。


「…俺のせいだろ」

そんな低い声に振り向こうとすると、その前に腕をぐいと引かれた。
そして次の瞬間には、彼の腕の中におさまっていた。

「なっ…」

驚きすぎて口から心臓飛び出るかと思いながら顔を上げようとすると、ぼふっと彼の胸に顔を押し付けられた。

「お前が泣いてたの、俺のせいだろ…ドアにぶつけたせいじゃないのは、分かってる…」

ぐしゃぐしゃっと、その手で頭を撫でられる。なんだかぐずる子供を無理やり宥めるようなその手つきに、少し笑ってしまいそうになる。
だって、そんなの似合わないから。

「別に、お前のこと嫌いって訳もねぇし、フッた訳でもねぇし…」

「じゃあ、好きなの?」


どうしよう、気付いてしまった。
…ギアッチョの鼓動、すっごく早い。私と、同じくらい。


「別に、そこまで…」

「好きじゃない?」

私の頭を押さえる手の力が弱くなったから、私は顔を上げてギアッチョを見た。

…耳、赤い…。

「クソッ…どっちでもいいだろ!好きに解釈しろ!」

どうしてギアッチョってこんなに素直じゃないんだろう。
そのひねくれ具合に、いつも不安になってたって言うのに…。

なのに、今はとっても分かりやすい。


「じゃあ、好きに解釈するからね!」

思い切り背伸びして、ちゅ、と。ギアッチョの頬にキスをした。

「おまっ…!」

「相思相愛ってことでいいかな?」

幸せすぎて、勝手に笑みがこぼれる。
ね?と笑いかけると、ギアッチョは目を泳がせながら、あー…と唸ったあと、照れくさそうに頷いた。


(つまりあの冷たい態度の数々は、愛情の裏返しってことでいいのかな?)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ