ジョジョ暗チ中心夢
□BAD APPLE
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「あー、疲れた!」
最後の一人の息の根を止めて、私はため息を吐いた。
自分の衣服を隅々まで眺め、返り血が全くついていないことを確認してほっと一安心。
「いいよね、メローネは遠隔型スタンドだからさ」
自分のスタンドを解除しながら、私に近づく影に言ってやる。
「まあね、おかげで君ほどハードに動かなくて済む」
床に転がる死体を気にすることなく踏み歩きながら笑みを浮かべる彼は、たいそう気味が悪い。
「それじゃあ報告書はメローネに任せる」
「しょうがないな、引き受けてあげるよ」
いつから血の臭いに吐き気を感じなくなったのか、いつから人を殺すことに何の感情も沸かなくなったのか。
分からないけど、そうでないとこんな気楽に話しなんて出来ないなぁとぼんやりと思った。
「ねぇ、お茶でも飲みに行こうよ」
死体に囲まれながらのん気にお茶のお誘いなんて場違いかしら。
まあ誘う相手がメローネだから、ムードなんか気にする必要ないけど。
「今から?別にいいけど」
「じゃ、決定」
外に出ると、強風が運んでくる新鮮な空気がやけにおいしく感じた。
私はメローネの腕をぐいぐい引っ張りながら、何処に行こうか何を飲もうか思案した。
「カフェオレな気分でもあるしー、紅茶もいいしー…」
「俺の濃厚なミルクとかどうだ?」
「絶対嫌だ」
「そうか?名無しさんが相手なら際限なく出てきそうではあるんだけど」
「何?最近ご無沙汰なの?」
真昼間に似合わない会話をだらだらとしながら街中を歩く私たち。
…先程まで人を殺めていたなんて、誰も思いはしないだろう。
こんなに自然に街に溶け込めるなんて恐ろしいことだ。私たちみたいな人でなしが。
「ちょっと!」
甲高い、ヒステリックな声が背後から聞こえた。
最初は誰に向かっての呼びかけなのか分からなかったから振り向かなかったけど、メローネが立ち止まったことで私たちへの言葉だったことに気がついた。
見てみると、頬を上気させたお嬢さんの姿。
私は知らない人だけど、メローネは面識があるようだ。
「やあ、久しぶり」
女とは対照的に、のん気なメローネ。
こいつのことだから、また女性関係がこじれているんだろうなぁと思う。
中身はとんでもない変態だけど、外見は結構かっこいいし。
「最近連絡ないと思ってたら…この女、誰よ!」
いきなりこちらを指差されて戸惑う。
もしかしなくても、勘違いされているようだった。私がメローネの女だと。
「あなたが…彼をたぶらかしたんでしょう?!」
彼女の怒りの矛先は何故か私のほうに向いていて、私に詰め寄ってそう怒鳴った。
どう答えてやるのがベストか少し考えたけど、こんな状況にも関わらず見知らぬ女に気遣いする気にもなれず、へらっと笑って言ってやった。
「そうよ?私が誘ったら、彼が乗ってくれたの」
間違っちゃいないでしょう?
私にとってはお茶の話だけど、彼女にとっては男女の関係の話というだけ。
彼女は私の言葉にさらに顔を真っ赤にして、かっと目を見開いた。
次の瞬間、乾いた音と共に頬に痛みが走った。
激情に駆られた彼女にビンタされたらしい。
メローネみたいに嬉しそうにベネとは言わないけど、結構いいビンタだった。
「おいおい、俺の女に乱暴しないでくれるか?」
それまで黙って面白そうにこちらを見ていたメローネが口を開いた。
私、あんたの女になった覚えないんだけど…ま、いっか。
段々面白い展開になってきたから、乗ってやろう。
「よく言うわよ、メローネだってベッドの上では結構乱暴じゃないの」
そんな適当なことを言う私の顔は、きっと憎たらしいほどへらへらしてるに違いない。
彼女は、今度はさっと顔を青くして、信じたくないというように左右に首を振った。
よろよろと私からニ・三歩後ずさって、その双眼に涙を浮かべ始める。
「…最低っ!!」
捨て台詞のようにそう叫んで、彼女は駆け出し去っていった。
中々楽しませてくれた彼女の背を最後まで見送ってから、メローネに向き直る。
「追いかけてあげないの?」
彼にその気がないだろうと思いながらも訊ねる。
「そんなことしてたら名無しさんとのお茶会の時間が無くなっちゃうだろ」
「ふぅん」
彼女と別れるかどうかよりも私との茶会のほうをとるなんて、それほど彼女に興味が無かったのだろうか。
そんなことを考えながら、まだじんじんする頬に手を当てた。
「あぁ痛かったー…カンチガイで叩かれるなんて心外だわ」
「君が煽るようなこと言うからだろ?それに、彼女の反応楽しんでたくせに」
「ははっ、あんた絶対振られるね、私のせいで」
言いながら、再び歩き出す。
さっきまでこちらを物珍しそうに見ていた人たちも、もう興味を失ったように雑踏にまぎれていった。
…暗殺者なのに、こんなに目立ってしまっていいものか。
「いいさ別に。そろそろ母体にするつもりだったし」
「うっわ、えげつない性格」
こいつに恋して騙された女の人って、どのくらいいるのだろう?可哀想に。
横目でちらりと彼を見る。
メローネも私のほうを見ていたようで、目が合った瞬間いつもの変態的な笑みを向けられた。
「名無しさんだって似たようなものじゃないか」
「それって、ものすごく失礼な言葉よ」
どうやったらこいつに恋なんて出来るのか。
少なくともこいつの能力知ってたら、恋愛対象から外さざるを得ない。
「君だって、男をとっかえひっかえしてるだろ」
「人聞きの悪い。私は何もしてないのに男が勝手に引っ付いたり離れたりしてくだけだもん」
私は足元の小石を蹴飛ばす。
石はころころと転がって、最後にぽちゃんと溝に落ちてった。
…きっと私もメローネも、他人なんてさっきの小石ほどにどうでもいいのだ。
他人のことなど知らない。自分は自分、ただそれだけ。
そんな、ロクデナシ。
「言われれば足も開くし、望まれれば『愛してる』も言うくせに」
何を考えてるのか読めない笑みの中で、目だけがやけに冷めているように見えた。
ともすれば私を責めているようなその言葉から彼の真意は見えない。
「別に、気まぐれ。気が乗ったらするし、言う」
「…じゃあさ、」
メローネの腕が私の腰に回る。
私が特に抵抗せずに抱き寄せられてやると、メローネは小さくベネと呟いた。
「俺と付き合おうよ」
「…別にいいけど?」
「本当か?!じゃあさっそくラブh「それは嫌」
メローネと付き合う、か…。
私は返事をした後になってそのことについて考えた。
恋愛対象外ではあるけど、一緒にいるのは楽しいから付き合うのも悪くはないかも。
一瞬後に出た結論は、それ。
それに、きっと…。
「今から興奮してきた。早く夜にならないかなぁ」
「今日は無理」
「どうして?」
「…後片付けが、ね」
「ああ、それじゃ俺も。てゆうか俺と付き合うためにそこんとこちゃんとしてくれるなんて嬉しいぜ」
「まあ一区切りってことで」
ロクデナシはロクデナシとしか合わない。
そんな気がしてきたから。
(腐った林檎二つは、仲良く箱の外)