ジョジョ暗チ中心夢
□ナターレ2
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私はとぼとぼと、ナターレの飾り付けで華やかな街を歩く。
せっかく雪まで降ってロマンチックなのに今日は素直に喜べない。
…周りが騒がしいほど寂しさは募るばかり。
彼は来るだろうか…来なかったらどうしよう。
同じことばかりぐるぐる考えるけど、こればかりは考えたってどうしようもない。
…頭を振って、考えを振り切るように歩調を速めた。
それは一週間前ほど前にさかのぼる。
ふとした理由で彼と喧嘩をした。
本当に些末な理由だったのに、どちらも意固地になってしまったから謝るタイミングを何度も逃してしまった。
目が合ってもむすっとした顔で無視したり、会話らしい会話もしなかったし。
今日まで仲直りがしたくなかった訳じゃないけど…そろそろ仲直りしようと思い始めた三日前から彼と全く会ってない。
リゾットに彼の仕事の予定聞くのも何だか癇に障るし、かといってメールや電話するのも何か嫌だ。
…いつまで意地張ってるつもりなんだろう、私。
別れようなんて言われたらどうしよう。
喧嘩はするけど、彼のこと嫌いだなんて思ったこと一度も無いのに。
またも思考は勝手に彼のことで埋め尽くされていると気づいて、少し胸が痛くなった。
喧嘩なんかするんじゃなかった、私がもう少し我慢しとけば…。
結局うじうじ思い悩むまま目的地に着いてしまった。
街の広場の、大きなツリーの下。
…彼と待ち合わせるときはいつもここ。
ナターレのときはツリーがあるけど、いつもはベンチだけがある広場。
私はベンチに薄っすら積もった雪を手で退けてそこに座った。
まだ空が暗くなってほどないくらいの時間だったから、行き交う人はたくさんいる。
子連れの親子、手を繋ぐカップル、女学生のグループ…みんな笑顔で通り過ぎていく。
…いいな、羨ましい。
私も彼さえいればすぐ笑顔になれるのに、すぐ嬉しくなれるのに。
来るかどうかも分からない彼を待ってる私はきっと滑稽だ。
そう思いながら、はぁ、と手に息をはきかける。手袋忘れるなんて、馬鹿だった。
そのまま30分がたち、1時間がたち…私が来たのと同じ頃にベンチにで誰かを待ってた人はみんな行ってしまった。目まぐるしいほどに入れ替わり立ち替わり。
きっとこんなに長くここに座ってるのは私が初めてじゃないかと思い始めたのは、それから3時間ほどたったとき。
寒さにがたがたと震える体を貧乏ゆすりで少しでも温めようと頑張るが、無駄な努力に等しかった。
「…早く来ないかなあ」
今や糸のように細い望みを繋ぐようにそう呟く。
来ないと言ってしまえば、私が待つことを止めたら、駄目なような気がした。
夜が深くなるほど雪は量を増した。
広場の大時計はもうすぐ23時を指そうとしている。
ナターレ、終わっちゃうよ…早く迎えに来てよ…。
半ば祈るように、強くそう思った。
だけどもう、人影すら少なくなってきている。
寒くて冷たくて、待つの疲れたし…眠くなってきた。
ここで寝たら死んじゃうかも。
必死にごしごしと目を擦るけど、重い瞼はすぐに落ちてこようとする…。
「おい、名無しさん!」
私を呼ぶ声に、はっと目を覚ます。
ぺちぺちと頬を叩く手は、私を起こしたのは誰?
一瞬目を閉じただけだと思っていたのに、そうじゃなかったらしい。
いつの間にか俯けていた顔を上げると、ずっと待ってた彼の顔。
「…ギアッチョ…?」
まだ霞がかかったようにぼーっとする脳が見せる幻想じゃなきゃいいけど…。
そう思って、すっかり悴んで感覚の無い手を彼の頬に当てた。
…私には熱いくらいの彼の熱がじんわり伝わってきたのを感じて、やっと夢じゃないと確信した。
「お前いつからここにいたんだよ…馬鹿…」
ギアッチョは眉間に皺を寄せた後、私をぎゅっと抱きしめた。
肩が大きく上下している…もしかして走ってきてくれたのかな。
私も彼の体に腕を回しながら、ちらりと時計を見た。
「あぁっ!」
落胆と驚きの、情けない声が出てしまった。
…0時回ってる…もう、26日だ…。
耳元で叫んだせいかギアッチョが不審そうな目をして私を見たけど、それどころじゃなかった。
「ナターレ…終わっちゃった…」
「ばっ…泣くなよ!その、悪かったな!!」
焦ったようにぐしゃぐしゃと頭を撫でられると、何故かもっと泣けてきた。
ギアッチョが来てくれたことへの安心を今更感じたのと、終わってしまった25日への後悔の涙だと思う。
「だって…ギアッチョとナターレ一緒にいたかった…」
そのために何時間も待ってたと言っても過言ではなかった。
1分でも一緒にいられたら、それだけで満たされるほど楽しみだったのに。
「おいしいって評判のパネトーネも買ったの…ギアッチョにあげたくて、頑張ってマフラーも編んだの…」
些細な理由で始まった喧嘩に意地張って謝らなかった私への罰だろうか。
神様の存在なんてこれっぽっちも信じてないけど、今日だけは恨まざるを得ない。
ギアッチョは真っ白なため息を吐いて、私を見た。
…うんざりされただろうか、面倒だと思われただろうか。
じわじわと不安が心の中を支配していく。
「…そんなにナターレにこだわらなくてもいいじゃねぇか」
ギアッチョが小さく呟いた。
…ひどい。そう思ったその時、いきなりギアッチョに両手で頬を包まれた。
思考が状況に追いつく前に、気付いたら唇が重なっていた。
熱い、ギアッチョの唇。
…溶けそう。
「今日ずっと一緒にいてやるよ…24時間ずっとな」
「本当に?ずっと?」
少し照れくさそうなギアッチョの顔を覗き込む。
目が合うと、照れ隠しのようにまたキスをされた。
「二人でナターレやり直そうぜ」
...Buon Natale!!