ジョジョ暗チ中心夢
□空色
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変わらないようで変わっている青い青い空を眺めていると、少し怖くなってくる。
継ぎ接ぎされた空がどこかほつれて崩れるんじゃないか、なんて、どうしようも無い妄想に支配されてしまうから。
「名無しさん、何してるんだい?」
ふと視界が陰ったかと思うと、典明が覗き込むように私を見ていた。
私は曖昧に笑って体を起こす。
「別に、ぼーっとしてただけだよ」
「怖い顔してたけど」
典明もすとんと私の隣に腰を下ろして空を仰いだ。
温い風が私たちの間を通り抜けていくのが、心地いい。
「そうかな?自覚なかった」
はははと笑った声はどこか中身が無くて、私は私じゃ無いような感覚に陥る。
―どうしてこんなに『怖い』と思うのか。
「名無しさん…何か悩み事でもあるのかい?」
典明はいつの間にか空を見るのを止めて私を見ていた。
―何が『怖い』と言うのだろうか、典明が隣にいるのに。
「なーんにも、悩んでないよ」
今度は上手に笑えた。
ちゃんと、温もりのある笑い声を出せた。
―漠然とした何かに怯えてるなんて、馬鹿馬鹿しい。
「…ウソツキ」
そっと手を重ねられた…私より少しだけ冷たい手。
そんな目で真っ直ぐに見られたら、私が何か悪いことした気分になるじゃないか。
「何年名無しさんのこと見てると思ってるの?分かるよ、そのくらい」
ちょっぴり傷付いたような顔をした後、そっと私の頬にキスをした。
最初は赤の他人から、幼なじみに。今では幼なじみから恋人に。
そんな風に自然に変わっていった。
…それはちっとも悪いことなんかじゃなかった、けど。
「…悩みってほどのことじゃないから、心配しないで」
次はどうなるのか、どう変わっていくのか…それを考えるとキリが無くなる。
変わっていくから、怖い。だからといって変わらないことも、怖い。
これはどうしようもない妄想。
考えるほど気を病む悪い白昼夢。
「…ねぇ名無しさん、」
典明の手がきゅっと強く私の手を握った。
どこか改まったような声に、私は少し身を固くした。
「……結婚しよう」
私は一瞬典明が何を言ったのか理解できずに戸惑った。
そして数秒かかって理解してからもっと戸惑った。
とりあえず顔が熱くなるのを感じる。
「…え?な、何…え?」
パニックに陥る私を見て、典明はおかしそうにクスクス笑った。
いや、笑ってないでよ!
「もちろんすぐにって訳じゃないよ?でも、将来さ…」
彼は再び、果てない空の向こうを見るように仰いだ。
私もまた、黙ったまま空を見た。
さっき浮かんでたふわふわの雲は、今はもう散り散りになって無くなってた。
変わっちゃう、また。
嬉しい、のに。
―空が崩れるのが怖いなんて、絶対に杞憂なのに。
「…私、いいお嫁さんになれるかなぁ」
「僕もいい旦那さんになれるように頑張らなきゃね」
そしてどちらともなくキスをした。
―願わくば、空は永遠に空であるように。
(それでもやっぱり、私の空は崩れてしまったのだけど)