ジョジョ暗チ中心夢

□緋色ノ幽闇
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茜色の空、昼と夜の間。
窓辺に立って外を眺める名無しさんは、目に痛いほどの夕日に照らされて真っ赤。

まるで血に濡れているようだと思った。

「ねぇ、メローネ」

血まみれの名無しさんが、澄んだ声で俺の名前を呼ぶ。
そんな名無しさんはいつもより美しく儚げで、崇高な存在のようにも思えた。

「何だい?」

俺は何だかどぎまぎしながら答える。
初めて好きな女と話すときの青臭いガキになったような気分だった。

「メローネの中に、私はいる?」

真っ直ぐに俺を見据えて問う名無しさん。
その目は真剣そのもので、嘘やからかい半分で返したらきっと彼女は崩れてしまうんだろう。

「あぁ、いる」

だから即答。だけど一瞬だって考える必要も無い。
だって俺は名無しさんを愛してる。

「本当に?」

「本当」

俺の答えに、名無しさんは嬉しそうにふわりと笑う。
つられて俺も口元を緩める。


「…メローネ、『鯛の鯛』という話を知っている?」

「いや…知らないな」

名無しさんは薄い笑みを浮かべたまま、少しだけ目を伏せる。
長いまつげが切なげに震えていた。

「鯛の胸ビレにはね、鯛と同じ姿の形の骨があるのよ」

俺はその場に立ち尽くすように、名無しさんの声に聞き入っていた。
彼女が何を言いたいのか分からないまま。

「他の魚にも、ある。秋刀魚には秋刀魚の、鮭には鮭の…相似形」

暗記した物語でも語るように、名無しさんは言葉を紡ぎだす。


「人間にもあるの、その相似形」

「それは、どこに?」

「…ここ」

名無しさんはそっと、自身の喉を白く細い指で押さえた。

「人間が両手を合わせて拝んでいる形をしているんですって」

大きなものの中には相似形があるという理論が、ある。
彼女は口を閉じて酷く切なそうに顔を歪めた。

俺はゆっくりと彼女に歩み寄って、そっと腰に腕を回した。
泣き出しそうな顔をした名無しさんの瞼に軽くキスを落として、そのまま唇を彼女の喉元に持っていく。

「じゃあここに、名無しさんがいるんだな?」

確かめるように問うと、名無しさんは幽かな声で分からない、と。

「私の中に、本当に私はいるのかな」

俺は名無しさんの言葉を聞きながら、やんわりとそこに噛み付いた。


名無しさんの中の名無しさん…。


「もしいなかったら、私は私でないのかな」

哀切に満ちた小さな声は、赤い光の中に溶けていく。



「確かめてやろうか?」


確かめて欲しいんだろう?


「名無しさんの中に名無しさんがいるかどうか」


確かめたい、俺も。
『名無しさんの名無しさん』。

そして今度は俺から、名無しさんの瞳を捕らえにいく。


「…確かめて、バラバラにして…私の中にあなたがいるかどうか、も」


…捕まえた、俺の愛しい名無しさん。

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