ジョジョ暗チ中心夢

□AF
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「おい名無しさん、大変だぜ、」

「なあ名無しさん聞いてくれよ、」

「そういや名無しさん…」


「うるさーい!!私に話しかけないでッ!!」

もう同じ手に何度も乗るのは嫌、私は両手で耳を塞ぎ大声で叫んだ。
それでもやつらは懲りた様子なんて無く、その様子すら可笑しそうに私を見ていた。

…とにかく、今日はできるだけ人と関わらないようにしなくてはいけない。

何故なら今日は4月1日、エイプリルフールなのだから。

物騒な組織の、しかも暗殺チームなんてものに所属しているのに、私は至極騙されやすい。
その上嘘を吐くのもヘタクソで…正直損な性格だと思う。

「荒れてんな、お前」

無人だと思っていた廊下でいきなり話しかけられ、びくりと肩が跳ねた。
目の前にはいつの間にか、ギアッチョ。

「…何よ、油断させたってもう騙されないわよ」

一言でも聞いてしまったら信じてしまう気がして、私はそのまま通り過ぎることを決意。
早足で横を抜けようとすると、肩を掴まれた。

「リーダーが呼んでたぜ、来いってさ」


「……ダウト!」

騙されそうだった、危ない危ない。
今日一番身近で本当らしい嘘だと思う。気付いた私はもしかして偉いかもしれない。

しかしギアッチョは思い切り眉間に皺を寄せて顔をしかめた。

「何言ってんだ、早く行けよ…ンな連絡事項で嘘なんか吐くか」

その上呆れたようなため息まで吐かれて、私はう…と言葉に詰った。
確かにそんなしょうもない嘘、吐いたってしょうがないか、な?

「わ…わかった、ありがと」

そうだよね、こんな連絡事項まで疑ってたら今日仕事も何も出来ないし。
ひらひらと手を振って、私はリーダーの部屋に向かうことにした。



「リゾット、入るよ」

ノックするとすぐに返事が返ってきた、開いていると。
そっとドアを開くと目に入ったのは正面の机の上の書類の山と、書類に目を通すリゾットの姿。

「あのー…」

リゾットの目が、私を捉える。

「どうした、何か用か?」


…アノヤロウッ!!

そうかすっかり騙された訳かとその瞬間理解した。
このまま何でもないとか言ったら、リゾットからしてみれば私って仕事の邪魔しに来ただけじゃないか。
だからって仲間に騙されたといえばそんな嘘に騙されるなんてと呆れられそうだし…。

「いやぁー、そのー、ご機嫌いかが…?」

「普通だが」

「ですよね…」

でもぐだぐだ長居したらそれこそ疎まれるだろうし。
よし、不自然だと思われるかもしれないけどもう出て行こう。

「えぇと、顔見に来ただけだから、もう行くね」

「…ああ」

リゾットは始終表情を変えずに書類に目を通したままだった。
そこまで仕事たくさんあるんだ…エイプリルフールだからと言ってはしゃいでいる私たちが少し恥ずかしくなる。

「用事も無いのに、ごめん」

結局そんな微妙な言葉を尻すぼみに呟いて、ドアノブに手をかける。


「…待て」

振り向くと、書類から目を離し私を見据えるリゾットの姿。
なんだろうと不思議に思って小首を傾げる。

リゾットは何を考えているのか分からない無表情でしばらくこちらを見た後、ふいと目を逸らした。

「もう少し、ここにいてくれ」

「…へ?」

意外な言葉に思わず間抜けな声が出てしまった。
出て行って欲しいなら言われても仕方ないのに、逆を言われるとは思ってなくて。

リゾットは書類を置いて、改めてじっと私を見る。
何だか異様な空気だ…お互いどうしていいか分からず固まっている、ような。


「楽しいか」

「え?何が…?」

まさかこの状況というわけではあるまい。
楽しいとは程遠いし…だからと言って嫌な訳じゃないけど。

だって、リーダーと二人きりなんて久しぶりだし殆ど無いから。
…緊張と、それとは違うどきどきを同時に感じる。

「いや…今日は一際はしゃいでいたようだからな」

「え?あ、まあ…仕事の邪魔しちゃったかな…?」

リゾットの言いたいことがイマイチ掴めなくて、声はふわふわしてる。

そんな今でもドアを隔てた向こう側からみんなの声が微かに聞こえる。
どんな気分でリゾットはこの声を聞いていたんだろう。

「いや…邪魔では無い」


そしてまた、沈黙。
見つめ合うような形でそのまま時が流れた。

「名無しさん、」

がたん、と椅子が動く音が室内に響いた。
リゾットがおもむろに立ち上がり、ゆっくりと私のほうに歩み寄ってきた。

「な、に…?」

私の真正面で立ち止まり、見下ろされる。
その近さに心臓の鼓動が早くなる。

そっと頬に手を添えられ、飛び上がるくらい体がびくんと跳ねた。

「…好きだ」

「う、うそ!」


何この急展開!

…反射的にそう言ってしまった自分を呪う。
でもだけど、可能性はゼロじゃないじゃない。例えリーダーが相手だとしても。

それに…これが嘘で、騙されてたとしたら…しばらく立ち直れない。
だったら疑ってかかったほうがいい。

だって今日は、4月1日。


強く拳を握って、リゾットから目を逸らした。
他の奴らのせいだ…信じられないじゃないか。

「どうしたら信じてくれる」

「…うぅ…」

それでも目を合わせようと真っ直ぐ私を見てくれているのが分かる。
こんな真剣なリゾット疑うのは、胸が痛くなる。

「嘘、つかないで…今日は、絶対嘘つかないで」

好きだから、私もリゾットが好きだから信じたい。
散々騙されたけど、これだけは騙されるの嫌。

視線を少し動かすと、相変わらず表情の変わらないリゾットが見えた。


「…楽しそうなお前の声を聞くのが辛かった」

「え…?」

リゾットの手が優しく私の頬を撫でる。

「俺ではお前をあんな風に楽しませることが出来ないとわかっていたからだ」

紡がれる言葉が真実かどうか疑うこともせずその声に聞き入った。
そんな野暮なことできるはずもなかった。

「お前がどういう考えでここに来たのかは知らないが、俺は嬉しかった」


一瞬時が止まったかのように思えた。
動き出した時は、柔らかな余韻を残して流れていく。


「…好きだ」


「なっ…なんで今日、言うかなあ…!」

燃えるように顔が熱い。
でもそれ以上に、触れ合った唇は火のようで。

「私も、好きだよ!だから明日もちゃんと言って!!」


だって今日だけだったら信じられなくなるでしょう?

きっとエイプリルフールなんて行事知らなかったリゾットが悪い。
そんな、タイミングの悪いリゾットが好き。大好きだ。



pesce d´aprile!!

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