ジョジョ暗チ中心夢

□月夜のシリアルキラー
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「ねえそこのお嬢サン、俺と愛でも語りませんか?」

ふいに掛けられた声に、ふわふわ軽いその言葉に、私は振り向く。
夜にどっぷり浸かった街の中に人通りはなく、きっとこの通りには私と声の主と二人きり。

「ほら、こんな素敵な月夜でめぐり合ったこの縁にさ」

その人はとてもへんてこな格好をしていた。
変なマスク、変な服。私が少しでも良い、と思ったのは月光を淡く照らす綺麗な髪の毛だけだった。

「そうね、それは素敵だわ」

私は何しろ一仕事終えたところだし…そう、少し酔っていたのかもしれない。
だからこの男の誘いに乗ってみたのよ。ばかな女みたいに二つ返事で。

「だろう?」

…男は薄く笑って、私に近付き目を細めてじっと私を眺める。
たったそれだけで艶かしさを感じてしまうほど、彼は不思議な妖しさを纏っていた。

「昨今この界隈に殺人鬼(シリアルキラー)が現れるそうだよ?良かったら愛の語らい序でに君の行き先までお供しようか」

おどけた調子で、吐息がかかるほどの至近距離でそう囁く彼。
それは随分不躾で不審ではあったけれど、私は上手に微笑んでみせる。

「…ええ、お願いしてもいいかしら」


それから私たちは眠る街の中を隣り合って歩く。
響くのは二人分の足音。他には時折犬の遠吠えや虫の声が聞こえるだけ。

「そういや君、名前は?」

彼の声がやけに大きく聞こえた。

「名無しさん。あなたは?」

「名無しさんか、いい名前だ。俺は…まあ、名乗るほどの者じゃない」

自分の言ったことにくすくすと笑う彼につられて私も笑う。
そんな台詞、本当に言う人がいるなんて。


「…メローネ」

「え?」

いきなり彼が私の肩を抱く。
耳元に彼の唇が寄った。

「俺の名前さ」

「…名乗るほどの者じゃなかったんじゃ?」

「ん、」

ふいに間を作った彼を見上げると、真っ直ぐな昏い目に射抜かれて心臓が高鳴った。

「君に名前を呼んでもらいたくなって、ね」

甘さの混じった声でそんな気障な台詞。
目の前の彼がこんな奇抜な格好をしていなければ少しは惚れてしまっていたかも、だなんて思い、自虐的に笑ってしまいそうになった。まさか、そんな訳。

「ねえ、俺の名前を呼んでみて?」

でも、どうしてこんなに体が熱くなってしまうのかしら?
やはり今宵は酔っているのよ。そうでなければ。

「…メローネ」

「そう、いい子」

そうでなければ出会ったばかりのこんな変態男のふいうちなキスを、甘んじて受ける訳ない。
分かっていたのに避けずに、目を閉じたのは私。そして一瞬後には唇に暖かで柔らかな感触。

「抵抗しないんだ?」

そして意地悪く微笑むその表情にくらりと心が揺れた。
私が小さく頷くと、彼の笑みが深くなる。

「今夜、一緒に過ごさない?」

もう一度触れるような軽いキス。

「えぇ、過ごしましょう?蠱惑的でロマンティックな一夜を…」


ばかな女になるのも悪くないかもしれない、なんて。
殺人鬼が息を潜めるこんな街で、こんなに惹かれる相手と共にこんなに綺麗な夜をやり過ごせるなら…。
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