ジョジョ暗チ中心夢

□赤い糸は金属製
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「はーあ…」

大きなため息を吐いて机に突っ伏している名無しさん。俺は今来たばかりだから本当のところは知らないけど、多分長い間この状態なのだろう。彼女が戻って来たのはずいぶん前のことだしそれからずっとこの部屋にいたようだし。

「どしたんだい、名無しさん」

俺は名無しさんの背中から被うように抱きつき、耳元でできるだけいやらしく囁いてやった。いつもなら女とは思えない力での肘鉄やヘッドロックなどの反撃をくらうのだが、名無しさんは「ぐぅ」と低く唸ったあと「重い」と言っただけだった。

以前もこんなことがあった…というか何ヵ月か一度はこういう状態になっている気がする。

「ははあ、また振られたのか」

名無しさんが恋に失敗するなんていつものことだし、もうからかいのネタですらある。本人だって一日も経たないうちに相手のことなんて忘れるし、落ち込むのだって数時間程のこと。

「うっさい!重い!」

俺の言い方が気に障ったのかいきなり立ち上がって俺を振りほどこうとするものだから名無しさんの後頭部が思い切り鼻にぶつかった。ベネ、その反撃こそ名無しさんらしい!
思わずひるんで鼻を押さえる俺を振り返り、きっと睨んで彼女は言う。

「そうよ!振られたのよ!悪い!?」

「いいや?全然。そりゃゴシューショーサマ」

「…むかつく!」

八つ当たりに次は拳で殴られた。名無しさんはフンと鼻をならしてまたドカッと椅子に座る。

そしてため息を吐き…どうやら落ち込み時間は終わったようだ。口はへの字に曲がっているがダルそうに髪をかき揚げて欠伸した。

「また赤い糸繋がってなかったわ」

「えっ、君その歳で赤い糸とか言ってるのかい?」

「うっさい!いちいちむかつくわね!」

にやけて名無しさんに顔を近付けると今度は脛を蹴られた。
…名無しさんにはいつも「殴られたくてわざと言ってるの?」と怒られるのだがそういう考えもまるきり無い訳じゃない。

「…赤い糸って都合いいじゃない、信じてるわよ」

「ふぅん?」

「だって最終的に結ばれた人と赤い糸が繋がってるってことでしょ?」

なるほど彼女らしい考え方だ。そういうところが男らしくて好きでもある。

「それにロマンチックじゃない、赤い糸信じてるとか言ってると」

にっと笑いながらそう言ってのける彼女は無意識に作為的というか、そういうこと言うから男心を掴めない原因なんじゃないかと思うけど今度は口に出さなかった。

「そんな都合のいい赤い糸ならさ、」

名無しさんの手を取りながら言うと、彼女はめんどくさそうにじとっとした目を俺に向けた。
俺は右手をチョキの形にしてはさみを模し、名無しさんの見えない赤い糸をちょん切るような仕草をした。

「あっ、私の赤い糸に何をする!」

とは言っているが別段驚いた様子も怒った様子もないところをみると、やはり彼女が赤い糸云々言っていたのが作為的であったように思う。もしくは俺がしたようなことは彼女の赤い糸論に反しているからノーダメージだと思っているのか。

「こうやって君の糸を切って俺の糸を結べば、」

何もない空間のありもしない糸を結ぶ仕草をする俺を、名無しさんはじっと見ている。

「俺は名無しさんの運命の人ってやつかい?」

「運命のウの字も信じてないクセに!」

彼女は呆れたようにそう言った後で僅かに口元を緩めて可笑しそうな顔をした。まるでまんざらでもないと言うかのように。

「今、嬉しいって思った?」

「まさか!そんな訳ないって思ったのよ」

あんたが運命の人な訳ないって。名無しさんがそう付け足してけらけらと笑ったのが、とても挑戦的に思えた。
そしたらいきなりどうしても彼女を自分のものにしてみたくなって、俺はぐっと名無しさんの顔を両手でおさえてこちらを向かせた。

あっけにとられる彼女の無防備な唇に自分のそれを押し付けて、油断して少し開いた唇の間に舌を滑り込ませる。ぬるりと彼女の舌と触れ合ったと同時に痛みを感じた。彼女が舌を噛んだのだ。

「っ、バカ何してんの変態」

「俺の変態は今に始まったことじゃないだろ?」

それでも俺は懲りもせずにもう一度名無しさんにキスをしようとしたのだが、彼女は舌打ちをして平手打ちでそれを阻んだ。

仕方なくキスは諦めたけど、代わりに息のかかるほどの至近距離で名無しさんを見つめる。何よ、と小さな声で彼女が言った。


「…もし俺が君をずっと閉じ込めて、」

口を尖らせて怪訝そうな目で俺を見る名無しさん。ぞくぞくする。

「死ぬまで離さずに愛し続けて君が他の男を少しでも想おうとしたら君を殺しちゃって、君が俺以外想えなくするとしたら?」

そうすれば君の言うように、俺は赤い糸で繋がった運命の人とやらかい?

俺を見つめる彼女の目は変わらず、一瞬の間を置いて彼女が口を開く。

「…私、赤い糸信じるのやめるわ」

「そんなに俺は嫌?」

「いや、別に…え、本気なの?」
「君が好きだ」


「…何それ、すごく似合わない」

ほんの少し彼女の表情がかたくなったのを見咎めて再三のキスを望むと、眉をひそめて顔を背蹴られた。


俺はちゃんとそれをオッケーの印だと理解して無理やりまた俺の方を向かせて深く口付けた。



君を落とすのはとても簡単なことだけど、俺は他の男みたいに簡単に君を離してやったりしないんだぜ?それこそ赤い糸でがんじがらめにしてやるから。

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