ジョジョ暗チ中心夢
□Melt down
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「ギアッチョ、おかえり!」
玄関からかすかに聞こえたドアの開く音に反応して、私はその姿を目に映す前にそう言っていた。
気持ちが先走ってしまったみたい。
リビングをばたばたと抜けて玄関へ向かうと、予想通りギアッチョの姿。
「あ?あぁ」
驚いたような、何とも言えない表情を浮かべて素っ気ない返事。
そして眉をひそめながら、
「まだ起きてたのかよ」
「うん!外、寒かったでしょ?温かいコーヒー淹れるね」
待ってた、とは言わない。だってそれは自分勝手な想いからの行動だし。
三日ぶりに任務から戻って来るギアッチョを、一番に迎えたい、と。
私はいそいそと、実は何時も前から準備し始めていたコーヒーをセットする。
ギアッチョはため息と舌打ちを繰り返しながら、どすんとソファに座った。
仕事で何かあったのだろうか?いつもより舌打ちが多い。
「クソ…寒いな」
イライラの感情を滲ませながらそう呟き、エアコンの温度を上げていた。もしかしたら、寒いことに対して苛ついているのかもしれない…彼ならそれもあり得る。
私はお湯が沸くまで手持ちぶさたなので、一旦リビングに戻った。
ギアッチョは私と目が合うなり、また舌打ち…え、もしかして私に怒ってるの?!
もしそうだったら嫌だな、と思いつつも、寒い寒いと言いながら手をさすっているギアッチョに近付く。
「コーヒー、すぐ出来るからちょっと待ってね」
「…あぁ」
ぶっきらぼうにそう言って、ふいと目を反らされる。
さすがの私も、理由も分からないままそんな態度をとられて黙っちゃいられない。
そっちがその気なら、私からこっちを見させてやる。
不自然なくらいに私を見ないギアッチョの手を取って、両手でぎゅっと包み込んだ。
「私が温めてあげる」
目を見開いて、やっと私を見た彼に、にっと笑いかける。
あぁ、すっごい冷たい手。
私の手の熱だけで足りるかな。
「は、離せよっ」
何故かギアッチョは焦ったように私の手を振りほどこうとする。
手を握るくらいで、何をそんな反応をする必要があるのか。
「ギアッチョが暖まったらねー」
ギアッチョの反応に調子に乗って、握る手の力を強めた。
「あー…クソッ」
「わっ…」
力任せに手を振り払われて、腕と腰をぐっと引かれる。
私は何の抵抗も出来ないままバランスを崩して、ギアッチョの胸に飛び込む。
パニックになる私をそのままに、ギアッチョの片腕はぎゅっと腰を抱き寄せながら、もう片方の手は私の頭を彼の胸元に押し付ける。
私は所在なく自分の手をわたわたと動かし、結局彼の服を躊躇いがちに掴んだ。
でも、ギアッチョの冷たい体は、ずっと暖かい部屋にいた私には心地よかった。
「ギアッチョ、苦しいよ」
もごもごとそう言うとギアッチョは少しだけ力を緩めてくれた。
その隙に顔を上げて、ギアッチョの顔を見る。目が合うと「クソ」と呟いた。
「…これだからお前は…」
何?と聞き返す前に、唇を塞がれた。
彼の冷たい唇が、やんわりと押し付けられる。
「な、なっ…」
そっと唇が離されて、超近距離で視線が絡まる。
きっと今、すごく顔赤いだろうな…。耳も、熱いし。
「…温かそうだな」
そっと両手で頬を包まれるとそれだけで、もうこれ以上上がりそうもない心拍数が限界突破しそうだ。
ギアッチョの膝の上に座って、ほんの少し高い目線から彼を見る私。
「ギアッチョは、」
沈黙が落ち着かなくて、私はうまく思考もまとまらないくせに口を開く。
「何か、温めたら溶けちゃいそうだよね」
いや、それはスタンドが凍らせる能力だってだけであって、本体は全く溶けるだとか関係無いって知ってるんだけど、でも…。
あたふたと言葉を補うけど、言えば言うほど空回り。まぁ、脈略も無いし、当たり前といえば当たり前なのだけれど。
ギアッチョはじっと私の目を見てる。何を思っているか知るすべは、ない。
私はうぅ、と情けない声はあげて目を反らした。何でかすごく恥ずかしくなる。
「…じゃあ、溶かしてみろよ」
その言葉の一瞬後には、視界が逆転していた。
ギアッチョは私に覆いかぶさるようにして、私を見下ろしている。私は腕を押さえつけられて、彼を見上げていた。
「な、なんで、なんで…」
あれ以上鼓動が早まることなんて無いと思っていたのに。
ギアッチョの言葉に、今のこの体勢に、私はパニック状態。
「温めてくれるんだろ?」
「ちがっ、そう言ったけど、こうじゃなくて…」
ギアッチョは、耳元に唇を寄せて囁く。
「俺のこと、溶かしてみろよ」
「そんな、んっ…」
再び重ねられる唇。
でも、今度は触れるだけじゃない。深く、求めるようなキス。
触れる唇の冷たさが嘘のように、口内に入れられたギアッチョの舌は熱かった。
これじゃあ、溶かされるのは私かもしれない。
私はそう思いながら、そっと目を閉じた。