ジョジョ暗チ中心夢
□変態出没注意?
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「名無しさん、コーヒー飲まない?」
「…いらない」
「じゃあ、紅茶は?」
「いらない」
「何か飲みたいものあるかい?」
「何にもいらない」
ここ三日ほどメローネとはずっとこんな感じだ。
…この前のことなんかけろりと忘れたようなメローネの態度に腹が立つ。
「お前、名無しさんに嫌われたんじゃねーの?」
ギアッチョが呆れたようにメローネに言うのが聞こえる。
「俺が名無しさんに嫌われる訳ないだろう?!」
どこからわいてくるんだその自信は。
私はイライラと、読んでいた雑誌を閉じた。
…部屋に戻ろう。
「俺は名無しさんを愛してるんだぜ?」
無視、無視。
不覚にも一瞬どきっとしたのは、きっと気のせいだろう。
「理由になってねーだろ」
…ギアッチョ、もっと言ってやれ。
私はその隙にリビングから出ようと、ドアノブに手を伸ばした。
「な、名無しさん?名無しさんも俺を愛してるだろ?」
ふっと耳元に息を感じる。
私はぞぞっと背筋が震えた。
「愛してないっ!」
いつの間にか背後にいたメローネをどん、と突き飛ばす。
…が。
「強がるなよ…素直に言いなって」
手首を捕まれて、意地悪な笑みを向けられる。
…何でそんなこと言うのかな。
私の困った顔見て、楽しいの?
メローネはふざけて楽しんでるのかもしれないけど、私は…。
「…やめてよ…」
遊ばれるのは、嫌だ。
そんな冗談は、全く楽しくない。
「メローネなんか、大ッキライ!」
メローネの手を振り払って、叫ぶように言った。
リビングにいたギアッチョやホルマジオが、驚いたようにこちらを見た。
私ははっと我に返って、メローネと目も合わせられないまま、逃げるように部屋を出た。
何で私はあんなにむきになってしまったのか…。
妙に考えがまとまらない頭をぐしゃぐしゃと掻く。
「またケンカか?」
「…プロシュート…」
苦笑を浮かべながら私にそう言ったのは、またもやプロシュートだった。
「何で知ってるのよ」
リビングにはいなかったはずなのに…。
「あんだけ大声出しゃ、嫌でも聞こえる」
「…毎度うるさくてごめん」
私は俯いて、ため息をついた。
最近私はイライラしすぎだ…。
「…名無しさんは本当にメローネが嫌いなのか?」
ふいにプロシュートが訊ねる。
「…嫌い」
私は少しの間の後で答えた。
嫌い、なのは…確かなの?
私は答えた後、心の中で自分に問う。
「どうして?」
「…私を、からかうから…『愛してる』とか、『好きだ』とか、タチの悪い冗談を言うから…」
そう、私はメローネに振り回されるのが嫌なんだ。
本気じゃないくせに、そんなこと言わないで欲しい…。
…何で?
それは……。
「…名無しさん」
悶々と考えを巡らせる私に、プロシュートが呼び掛ける。
プロシュートはいつの間にか私の目の前にいて、真面目な顔して私を見ている。
「な、何…?」
心なしか、距離が近過ぎるような気がせんでも無い。
「俺にしないか?」
「何を…」
じりじりと、プロシュートが近付いてくる。
わ、プロシュートのまつ毛、やっぱ長い…って、そんなこと気にしてる場合じゃない!
「ね、プロシュート…近くない?」
私もじりじりと、後ろに下がる。
しかし、すぐに背中に壁の堅さを感じた。
「俺は冗談なんかじゃなくて、本気で言う」
「…え?何…」
もうこれ以上後ろに下がれない…。プロシュートの整った顔が、すぐ眼前にある。
…プロシュートはどうしたの?頭でもぶつけてしまったの?
「あの、あの…プロシュート…?」
しどろもどろの私とは対照的に、プロシュートは落ち着き払っている。
そっと、頬に手を当てられる。
これから何が起こるの?
プロシュートは何がしたいの?
私は、どうすればいいの?
プロシュートの顔が、さらに近付いてくる…あれ、これは、もしかして。
キスされますか?!
「っ、や…」
「…何してるんだ?」
鋭いような、咎めるような声がした。
声のする方を見ると、睨み付けるように私たちを見るメローネ。
「何って…なぁ、名無しさん?」
挑発的に、意味深に、プロシュートが言う。
口元には余裕の笑みを浮かべて。
「……名無しさん」
そんな口調で名前を呼ばれたら、何だかひどく怒られているように感じた。
メローネは踏みしめるようにこちらに歩み寄った。
そして、私の腕をぐいと掴む。
「いたっ…」
その力はとても強く、腕に食い込んでくるようだった。
「プロシュート、悪いけど、名無しさんは俺のだ」
「…じゃあしっかり繋いどくんだな」
にやりと笑うプロシュートは、何だかこうなることを見透かしていたような表情に見えた。
だが、そんなことを深く考える間もなく、私はメローネに引っ張られる。
「メローネ、痛いっ…」
抵抗しようとも、まるで手錠のように固く捕まれた腕。
私は引きずられるように、メローネについていくしかなかった。
「ねぇ…」
何だか、メローネが怖い。
こんなに怒っているような様子のメローネを見たことがなかった。
私が、プロシュートと変な感じになってたから…?
でもメローネは、私で遊んでただけなんでしょう?まるで悪戯でもするように。
やがてメローネの部屋の前まで連れてこられて、私は身を堅くした。
いくら長年男だらけのアジトにいるとはいえ、一部屋に二人きりなんてあまり無い。
…何だか、危険な気がした。
でも、メローネはあれきり黙ったままで、私を押し込むようにして部屋に入れた。
「やだ、メローネッ…」
だんっと勢いよく両腕を閉じられた瞬間のドアに押しつけられ、固定される。
腕を握るメローネの力は、本気かと思われるほどに強かった。
冷たい目で射るように真っ直ぐと見据えられて、私は息を飲んだ。
…本当に、怖かった。
その視線で、殺されそうなほどに。
「…どうして…っ」
絞りだすようにメローネが呟いたかと思うと、彼はくしゃりと表情を歪ませた。
そしてまた睨むように私を見たかと思うと、いきなり唇を塞がれた。
その勢いで、ごんと音がするほどドアに後頭部をぶつけて、鈍く痛んだ。
先日の、柔らかく押さえ込むようなキスでは無かった。
深く、貪るような獰猛な口付け…このまま、食べられてしまいそうなくらいに。
抵抗しようと首をひねると、唇を噛まれた。
…足が、震えた。
見慣れたはずのメローネが、全くの別人に思える。恐怖しか、感じられない。
「んぅっ…」
自然に涙がこぼれ落ちた。
目の前のメローネが、分からない…。
それに気付いたのか、メローネがやっと唇を離す。
私は思い切り肩を上下させながら、息をした。
…涙が、止まらない。
「違う…そんな顔が見たいんじゃない…」
メローネは辛そうに顔をしかめる。
「どうやったら…俺を愛してくれる?」
零れるように紡がれた言葉は、酷く弱々しかった。
いつも半笑いの、にやにや顔のメローネなんか想像できないほどに。
「私はっ…、」
…嘘だ。
大ッキライなんて、嘘。
私は認めたくなかっただけ。
メローネの言うこと本気にして、自分だけ空回りするのが嫌だっただけ。
私だけが、本気になるのが嫌だった…。
「ずっと、メローネのこと、好きだった…!」
私はメローネから視線を外したくて、俯いた。
…顔が、見れない。
「…名無しさんはずっと、俺のこと拒否してたじゃないか…」
「メローネの言葉が、信じられなかったの…ずっと、からかってるんだと思ってて…」
言い訳のような私の言葉。
今となっては申し訳なさだけが募る…。
ずいぶんと長い間私は突っぱねていたのだな、と。
「からかってなんかない、俺は名無しさんを愛してる」
真面目な、メローネの顔。
…今なら信じられる…?
「…私も…」
…分からない。
信じていいのかな、分からない…。
だって、恋なんてしたこと無いから…。
言い淀む私に、メローネはため息をつく。
ちらりと見上げると、その口元は少し緩んでいた。
「…どうやったら、信じられそう?」
「……分から、ない」
難しいよ…恋なんて、愛してるなんて。
メローネは、こんな私でもまだ愛してると言ってくれるのかな。
…不安になる。
メローネは、私の涙をそっと指ですくう。
「名無しさん、もう一度…キスしていい?」
そっと囁かれた…了解を求められるのは、初めてだった。
でもそれが、何だかとてもドキドキする。
「…うん…」
私がゆっくり頷くと、メローネは嬉しそうに笑んだ。
目を閉じると、すぐに唇にやんわりとキスされる。
優しいそれは、胸がきゅうと締め付けられるような愛しさを感じさせるような甘いものだった。
「…何かね、すっごく、メローネのこと好き…」
さっきとは全く違う感情から、また涙が出てきた。
こんなに泣いたのは、初めてかもしれない。しかも、メローネの前で。
「愛してる、って言ってみてよ」
今なら、偽り無く言えそう。
この気持ちを、愛してると言うなら。
「……愛してる」
少し気恥ずかしいけど、言ってみるとそうでもなかった。
メローネは、ベネ、と満足そうに笑う。
とても満たされたような幸せな気持ちがして、私も笑った。
「その顔が見たかった」
メローネは、今度は私の頬にキスを落とした。
「…もう、大ッキライなんて言うなよ?」
絶対、言わない。
私はちゃんと、メローネのこと大好きだって分かったから。
「うん…メローネ、大っ好き!」