ジョジョ暗チ中心夢
□Rainy drive
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「…クソッ…」
彼の舌打ちはこれで何度目だろうか?両手では数えきれないほどなのは確かだけど。
まあ、理由は聞かずとも分かるけど。
「なぁ、ぶつけてもいいか?」
「…駄目」
彼の舌打ちがまた一回増える。
私だって、イライラしてるよ…彼ほど表には出さないけれど。
原因は、私たちの前を走っている車にある。
こっちが特に急いでいる訳でもないけれど、前の車がとにかく遅くてイラつく。
年寄りかと思いきや、そうではなかった。
…カップルだ。
何をそんなにひっつきもっつきすることがあるのか知らないが、助手席の女と運転席の男が身を寄せあうように体を傾けている。
そのままの体勢でイチャイチャし続けているから、男の運転がとにかく鈍くて危なっかしい。
しかし抜かすことも出来ないし、大人しくその車の後ろを付いていく他方法がない訳だ。
「何なんだあいつらはよぉー…クソ迷惑なんだよ!」
スピード出したがりのギアッチョにとっては尋常じゃなくストレスが溜まるらしく、イライラとドアの辺りを蹴り始める。
「まぁまぁ、落ち着いてよギアッチョ…先にこっちが事故しちゃった、なんて嫌だよ」
宥めるようにそう言うと、ギアッチョにぎろりと睨まれた。
「ナメてんじゃねーよ、俺が事故る訳ねぇだろ!」
「もう、私にまで怒らないでよ!」
怒ってるギアッチョは嫌い。怖いし。
今日はギアッチョとドライブだ(本当は仕事なのだけど)と思って楽しみにしてたのに、雨は降るし、前の車はムカつくし。
むっと唇を尖らせてそれきり黙り込んみ、ギアッチョを視界に入れないように窓の外を眺めた。
音楽も流れていない車内には、エンジン音と雨が車体を打つ音だけが聞こえる。
…何て居心地の悪い空気。
「…クソッ…」
またもギアッチョの舌打ちが聞こえて、私はふと前を向いた。
うわ、信じらんない。キスしてるし…。
そのせいで、前の車はまたも減速した。
プチン、とギアッチョがキレた音が聞こえた気がした。
そろそろ本当にギアッチョが前の車に衝突するかもしれないと本気で心配になって、ちらりと横目で彼を見た。
「あの…ギアッチョ…?」
何故か勝ち誇ったような顔をしているギアッチョ。逆に不安になる。
…ひやりと、足元が冷えた気がした。
冷房つけてたっけ?と確認したその時、前方からスリップ音と、どん、と重たい衝突がした。
前の車が、道路脇の電柱に突っ込んでいる…。
ギアッチョはそれをさして気にする風も無く、すいと事故車を避けてスピードを上げた。
「もしかして、今の、わざと?」
さっきの冷気とギアッチョの表情から、一つの推測が出来た。
ギアッチョがスタンドで水溜まりを凍らせて、前の車のタイヤを滑らせたのではないか、と。
「もっと早くこうすりゃよかったな」
にやりと、してやったりなギアッチョの笑顔を見て、私もため息より先に笑みがこぼれてしまっていた。
まあ、ギアッチョらしいと言えば、そうかもしれない。
今のですっかり機嫌が直った私たちは、再び他愛ない会話を始める。
「それにしても、なんで運転中にあんなにイチャつく必要があるんだろうね」
「知らねーよ。盛ってんならラブホにでも行きゃいいのによォ、クソ迷惑だぜ!」
「…私はあんなにイチャイチャしなくても、ギアッチョが隣にいるだけで充分幸せなのになー」
「なっ…」
「ちょっ、ギアッチョ危ないよ!こんなスピードでよそ見しちゃダメ!!」
「…俺も、お前と一緒にいるの嫌いじゃねぇぜ」
しばらくして聞こえた言葉に、私は嬉しくて思わずギアッチョに抱き付きたくなってしまった。
Rainy drive