ジョジョ暗チ中心夢

□心音に隠されたから
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「…昨日ね、いきなりクッキーが焼きたくなったの、理由もなく、唐突にね?で、ね、作ったのはいいけどさすがに一人じゃ全部食べきれなくてね、だからこれ、ん、あげる。余ったの。別に、わざわざあんたのために作ったんじゃないの」

形を崩さないよう慎重に持ってきたクッキーの袋を鞄から出して放り投げるように渡す。はあっとわざとらしくため息なんかついて、ちらりと反応を伺って。ギアッチョは何も言わずにそれを眺めた後雑にテーブルに置いた。

「…どう今の、ツンデレのつもりだったんだけどどうだった?グッときた?こなかったんだったら別の手を考えるから。んー、そうね、次はどうしようかな、赤面しながら言ってみようか。あのね自信ないけどクッキーあなたに食べて欲しくて一生懸命頑張ったの、あらやだ私ったら砂糖と塩間違えちゃったてへへ…と、か」

静かだ、静かすぎる部屋。私の空回りしてる寒い台詞と雨の音しか聞こえない。私が来たときより雨脚が強くなったみたいで、この部屋にはすこしうるさいくらいだ。

仕事を早めに切り上げて雨のなかわざわざ家を訪ねた私を、ギアッチョは何も言わず中に入れてくれはしたけどまだ一言も会話はしてない。黙ったままソファに隣り合って座っている。ひと一人分の微妙な距離を開けて。

やはり何も無かったみたいに誤魔化そうなんてのは駄目みたいだ。いつまでも私は悪くないけど、みたいな意地を張るのやめよう。でもだって、許してくれるか不安で、口をきいてくれるかも不安で、不安だらけで。

「あの、ね…」

昨日喧嘩したの。デート楽しみにしてたのに出かける直前にまた「仕事がいきなり入った」って目の前で携帯を閉じる彼を思い出す。
いつもそうじゃないのって、つい言ってしまった。仕事のことには口を出さないようにって思ってたのについ、いつもなかなか会えないのとか彼の機嫌が悪いのとか我慢してたのが爆発しちゃって、彼の部屋の物とかにも当たってしまった。

「…その…ごめんなさい、って、言いにきたの…」

雨の音に負けそうな声だけど、絞りだすようにやっとそれを言うことができた。しわになるほど服を握って、彼の目なんて見ることができるはずもない。

「…っひ」

ふいに伸びた手にびくりと体が震えて目をぎゅっと閉じてしまう。

「…濡れてるじゃねえか」

ぽんと頭に手を置かれ、そのままくしゃりと撫でられた。その手つきが雑ながらも優しくて泣きそうになる。

「傘ね…さしたけど、急いで来て、それで…」

「馬鹿だな」

ぽんぽんと軽く叩かれ今度は髪の毛を梳くように彼の手が動く。

「だって、はやく、会いたかったのっ…!」

ドキドキして胸が苦しくて、うまく喋れない。でもきっと分かってくれてる。いつも言葉が足りなくてぶつかってばかりだけど、たまにこんな風にされると言葉なんていらないんじゃないかなって思う。

「風邪ひいたら困るだろ…シャワー、浴びてこいよ」

「えっ、でも、私…」

着替えとか持ってきてないよ、そう言おうとしたのにギアッチョは私に弱くデコピンをしてふっと息を吐いた。

「…抱きてぇって言ってるんだよ」

頭が痺れて顔がかあっと熱くなる。そっと彼の方を見ると、私から顔を背けているから表情は分からなかったけど少し耳の赤くなっているのを発見してしまった。

「かっ…借りる、ね…」

後のことなんて考える余裕もないけどとりあえずギアッチョの言うことを聞くことにした。ギクシャクと立ち上がってふらふらシャワールームに向かう。
部屋を出る前に振り返ってギアッチョの後ろ姿を見ると、彼は私の持ってきたクッキーの袋に手を伸ばしていた。

「これ食って待っとくから早くしろよ」

私が見てるのに気付いてみたいにこちらに視線を寄越してクッキーを見せるように振る。



(もう雨の音は聞こえない。)

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