記念碑
□ギアッチョ夢
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私の為に出されたうっすいコーヒーを啜りながら、ちらりと隣の彼に一瞥をくれる。
足を組み、真一文字に唇を結び、何ともつまらなそうに目の前のテレビを見つめる彼。
久しぶりに会ったから愛想よくしようとか、たまにしか会えないから出掛けてみようとかそんなことは思わないらしい。
でもこんなのってあるかな、仮にも彼女が来たというのに…というかギアッチョが呼んだクセにこの態度!
昨日電話かかってきた時は子供みたいに飛び跳ねながら喜んだけど、今日来てみたらその気持ちはどこへやら。
吐き出したいため息を抑えるのが忙しくなるなんて、さ。昨日は思いもしなかった。
おまけに変な沈黙が続くせいでいつもみたいに我が儘とか甘えたりもしにくい。
仕舞にはいつもって何だっけ、どうしてたっけと一人悩む始末。
「ギアッチョー…?」
「あ?」
面倒くさそうな返事に怯んで、すぐに何でもないと答える。
こんな様子で小一時間、またテレビの音だけが響く部屋に二人きり。
だって、面倒と思われたくないし甘えていいものか悩む。
そんな気分じゃないと一蹴されたらそれこそどうしたらいいか分からない。
だけど…こんな近くにいるのに何も出来ないなんて苦しい。
「……、」
私は黙って彼の肩に頭を預けた。お願いだからこのくらい許して。
じんわり伝わる微かな温もりにも充分幸せになれる。体が少し触れるだけでこんなに。
そっと視線を上げると、ギアッチョとばっちり目が合った。
「ギアッチョ…」
名前、呼んでみただけ。
そう言って笑うと、ギアッチョは一瞬眉間に皺を寄せかけたけど結局ふんと鼻を鳴らしただけだった。
「お前、楽しいかよ」
見下ろされ、静かな問い。
見上げる私の顔はきっと間抜けだ。彼の眼鏡に映りそうだ。
「楽しいよ?」
「…こんなでもか」
「ギアッチョといれたら、それだけで楽しい」
今の状況だって寂しいけど、楽しくない訳じゃない。
ギアッチョはそのまましばらく私の目を見て、
「……馬鹿かお前」
呆れたように呟いた。
酷い、反論しようとする前にいつの間にか伸びてきた腕に抱き寄せられた。
さっきよりずっともっと温かい。
私も躊躇いがちに腕を回すと、ギアッチョの力が少し強くなった。
「好きだ」
耳元で囁かれる言葉はテレビの音の中にすぐ溶けた。
だけどもう一回とせがみたいくらいに私を酔わせるその声。
「わ、私も…」
好き、はギアッチョの唇に遮られた。
言えなかった言葉は食べられてしまったみたいだ。
うかうかしていると舌を差し込まれて口内を貪られる。
ギアッチョが片手でリモコンを操作し、テレビの電源がぶつりと切れた。
重なった唇から漏れる音も、くしゃくしゃと私の頭を撫でる音も…耳に痛いくらい大きく聞こえる。
ようやく私たちの時間が始まったような気がして、私もゆっくりと舌を絡ませた。