*短編・中編*
□恥ずかしさ八割、嬉しさ二割
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「ちょっと待ってよ若ー!」
私の少し前を歩く、無愛想でそっけない彼に声をかける。
が、彼が素直に立ち止まって待ってくれるはずもなく、「さっさと歩け」と一言、顔をこちらに向けることもなく言っただけ。
…が、その時。
突然右足首がぐきっとなった。
がくんと体が傾いてバランスが崩れ、体勢を立て直すこともできずに、両膝を思い切り地面にぶつけた。
「わっ…!」
運が悪いことに足元の道はアスファルトだったため、かなり痛かった。
しかも、ちらっと若の方を見た瞬間に若と目が合ってしまった。
「…フン」
「ちょ、ひどいっ!鼻で笑うことないでしょ?!鼻で!」
…いや、でもこれでこそ若だ。
「大丈夫か」なんて心配するどころか笑う彼こそ、若だ。
すごくひどいやつだ。
…でも。
「何もないところでこけられるなんて器用なヤツだな」
そんな失礼な言葉を言いながらも、私に手を差し伸べてくれる。
「…ありがとう」
「ぼけぼけしてるからこうなるんだ」
若に手を引かれながら立ち上がると、ズキンと膝が痛んだ。
恐々と見てみると膝は両方ともすりむけていて、血が滲みはじめていた。
すごく痛そうだ…というか、実際痛い。
「…泣くなよ、そんなに痛いのか」
私が顔を歪ませたせいか、若が困ったようにそう言った。
「泣いてないよっ」
恥ずかしくて痛くて、泣きそうではあるけど。
若はため息をついて、俯いたままの私の頭をぽんぽんと叩いた。
…若は私を慰めるつもりでそうしてくれたのだろうけど、少し痛かった。(…でも嬉しかった)
そこまで心配してくれなくても、大丈夫なんだけどな。
「ほら」
大丈夫だから気にしないでと言おうとしたら、若が私の前で背を向けてかがんでいた。
「…え?え?」
「おぶってやるよ、保健室まで」
「いや!いいよ、別にそこまでしてくれなくて!」
何もないところで勝手にこけて、その上ちょっと擦り剥いたくらいのケガなのにおんぶで保健室まで連れていかれるなんて恥ずかしすぎる。
…恥ずかしすぎる…!
「つべこべ言ってないでさっさとのれ」
私が言うこときかないから、少しむっとしたように若が言う。
いや、そのご好意は足が痛いのも忘れて飛び跳ねるくらい嬉しいけどさ。
「は、恥ずかしいし、いい!」
ぶんぶんと首を横に振って断ると、若はまたため息をついて、ゆっくり立ち上がった。
良かったとほっとしていると若が私の目の前にやってきて、
「じゃあこうする」
そう言って私を横抱きにした(!)
「いやいや!もっと恥ずかしい!おんぶがいい!」
こんなメルヘンちっくな体勢になるなんて想像もいていなかったから、かなり焦った。
私がじたばた暴れると、若は眉間にしわをよせながら、
「わがままなやつだな…でも降ろすのも面倒だからこのまま行くぞ」
…結局私は転んで膝をすりむいただけなのにお姫様だっこで保健室に運ばれるという、罰ゲーム級に恥ずかしい目にあったのだった。
「…恥ずかしさ八割、嬉しさ二割…」
「何か言ったか?」
「何も言ってないっ!」