頂き文
□kiss kiss fairytail
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眠れない夜。理由はすぐ傍にある。
「影野、もう寝たか?」
隣に横たわる影野に向かって、控えめな声で囁いてみる。
影野は髪で両目が隠れているため、寝ているか起きているか判断しづらい。
「起きてる……」
微かに影野の唇が動き、半田の問いに答えた。起きているとわかったところで更に問う。
「眠れない?」
「うん」
「俺もだ。こんな近くに影野がいるのに、寝たらもったいない気がして」
影野の家に泊まるのも初めてなら、合宿以外で影野と一夜を共にするのも今日が初めてのことだった。嬉しさに弾む心が睡魔を寄せ付けず、目は爛々と冴えきっている。
しかし、部屋は違えども同じ屋根の下で影野の家族が就寝中の今、事に及ぶほどの度胸は残念ながら持ち合わせていなかった。
「俺も……なんだか変に目が冴えちゃって、全然眠くないんだ……」
「いっつも膝枕してもらってるから、お返しに腕枕でもしようか」
影野は気だるげにボソボソと呟く。
半田の提案に影野は少し戸惑っている様子だったが、腕が差し出されると素直に頭を乗せてきた。
「寝心地はどう?」
「ドキドキして余計に眠れないよ」
「じゃ、やめたほうがいいかな」
腕を退けようとすると、影野は半田のパジャマの衿元を掴んで引き止めた。
「いい……、このままで……」
ほんのり頬を染めながら訴える影野が愛しくて、淡い色の髪にそっとキスを落とす。
「何か話でもするか」
「うん」
ただ黙っているのも暇かと思い、自然に眠気が訪れるまでお喋りでもすることにした。
「影野は何の話がいい?」
「なんでもいい」
「そう言われてもなあ……」
なんでもいいという言葉は、言うほうは軽い気持ちでも、言われたほうはなかなかに困るものだ。
「じゃあ、半田の好きなもの教えて。どんな小さなことでもいいから。半田のこと、もっといっぱい知りたい」
「了解。もちろん、お前の好きなものも教えてくれるんだろ」
「いいけど……あんまり面白くないと思うよ」
苦笑いの影野に不意打ちでキスをして、微笑む。