しゃぼん玉。

□Happy or Unhappy
  and more Unhappy?
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 君がそこで僕に笑ってくれるなら、僕はなんだってするんだよ──。
 そう、言ってリングを差し出したのに。
 君は今僕の目の前で、
 僕の目には映らなくなって、
 自分で出てきたりしないで、
 そのまま消えてしまいそうな、
 そんなかくれんぼを、
 始めてしまった。

 単なる事故だ。
 誰の作為があったわけでもない、ただの事故だった。
 爆発音がしたわけでもなければ、地面が揺れたりしたわけでもない。
 ただ偶然に、あるいは必然なのか、老朽化していたトンネルは崩れた。4分の1だけ、観光バスを巻き込んで。
 大きなコンクリート片がバスの後部左側に落ちた。それはエンジンと四つの座席と、そして四人の人間を、消した。潰れたわけではない。車体を割って転がり、タイヤのついていた大部分は慣性で進んだ。
 僅かに時をおいて、2つを分かつように、土砂が積もった。 デートとプロポーズの後、幸せな時間は砕かれた、そう彼が気づいたのは進んでいた元バスが止まってからだった。
 左にいたはずの、彼女が、婚約者が、居ない。
 あり得ない──、
「下がれ!!」
 首を捕まれ、引かれる。彼の目の前に、コンクリート片が積まれた。
 現実──。見えない、現実。
「嘘だっ!!」
 鬼の形相は悲しさを秘める。
 膝から崩れ落ちて、虚ろな瞳はただ、前を、
 彼女がいるはずの場所を、
 見つめていた。

 二時間の時が過ぎた。
 トンネルないの電波送受信機が壊れたそうで、携帯は通じない。
 山は今、ようやく崩され始めた──、とはいえ、崩落を考え少しずつ、だ。
 苛立ちを覚えても仕方ないが、感じないわけもない。
 彼は悲しみと虚ろを越えて、怒りへとその感情を移行させている。
 なぜ、こうなるまで放置したのか。
 どうせなら僕も隠れればよかった。
 命を賭して。
 不愉快だ。
 掘削作業は進まない。
 ただただ彼は焦れていく。

 それからさらに一時間が過ぎた。ようやく壁に穴があき、その向こうへはいれるようになった。
 一目散に、彼は歩み、走り出す。彼女はそこに居た。
 瞳を閉じて、壊れて割れた窓枠とガラスに横たわっている。
 頭から流れ出していたのだろう血液が固まり、鼻の辺りで分岐して頬を流れ、首へと続いていた。着ていたワンピースも、切れほどけている。
 その姿は彼に、戦場で傷ついた戦乙女を思わせる。
 死んでいるのか。
 もうすでにヴァルキュリアによって選別され運ばれたのか。
 一歩、一歩、一歩。
 彼は靴底を擦って歩み続ける。
 まだアンデッドでないと信じて。
「真佑?」
 肩に手を置く。
「……真佑?」
 揺さぶって待つ。
 息はしている。心臓も動いている。
 意識は、──ない。
「真佑! 真佑!!」
 起きろよ!! 怒鳴りたかった。いい加減にしろよ!!
 指環要らないのかよ!? 一人でいくのかよ??
 救命隊員が担架に彼女をのせた。ゆっくりと進み始める。
「真佑──!!」
 取り残されて、再びとなるのか。膝から崩れ落ちる。
 どうせ僕をからかう気なんだ! 他になんの可能性もない、意識がないなんて嘘だ……!!
 信じればいい、信じられないから膝が痛む。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁあ……」
 肺から空気を絞り出して、訪れた静寂。の、後。
 担架の上、細い体躯が動き出す。
「何!? どうしたの良? 何か出た?? ……ここは?」
 眠たそうにまぶたを擦るのは、
「真佑──!!」
「は? 何?? なんなのさ!?」

 あれは本当に僕の絶叫で目覚めただけで、
 脅かす気はなかったらしい。
 でも、僕はいつも騙されてばかりだ。
 彼女の楽しみはそれだけらしい。
 ……僕と結婚してくれる理由ってもしかして、
 ──僕をからかうため、なんて……
 そんなこと、
 ないよね!?
 

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