しゃぼん玉。

□WE WILL BE ...
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「3つだけ、お願いしていい……?」
 病室の白いベッドの上、齢15の少女は、傍らの椅子に腰かけた、幼馴染みである少年に、問う。
 いつもは強気な少女の弱気な発言に少々驚いた少年は、しっかりと頷いた。
 決意を固めるつもりなのか、少女はゆっくりと深呼吸をした。ほんのりと頬が紅いように、少年は感じる。
「……1つ、私を信じていてください。何があっても疑わずに、信じていて。二つ目、私を待っていてください。私が何処かに閉じこもって帰ってこなくても、待っていて。最後に──」
 まぶたが降りる。一呼吸してから、少女は少年を見つめた。
「──最後に、私が無事何事もなく帰ってこれたら、これからもずっと、一緒にいてください。何処へ行くときも。……幼稚園の頃からずっと、ずっと、好きでした。今も、好きです……!」
 その眼差しが持つ力は、強い。
 少女の告白は、明日に控えた手術を意識してのものなのだろうと、少年は感じ、それと同時に、
「当たり前じゃないか」
 絶対の自信をもって答える。
「お前を疑ったらお前は俺をぼこぼこにするだろ? それに俺は長くても数十時間しか待たなくてもいいはずだ。何せお前はすぐ帰ってくるんだから」
 それから、笑う。
「おまけに俺がいなかったら誰がお前のわがままに付き合うんだ? 俺ほど優しいやつなんかいないぜ?」
 聞いて、少女は嬉しそうに微笑む。
 少年は少女のベッドへと椅子ごと近づき、再び口を開く。
「怖いか?」
「うん」
 素直に認める少女。
「そうか」
 少女へと手を伸ばし、胸も使って抱く。
「暖かい」
 なんか安心する──、そういう前に、
「いい匂い」
 微笑んだ少女は一変、殺意をむき出しにした。
「調子に乗るな! 涼のくせに!! この変態……!!」
 そして少年は声をあげて笑う。盛大に。
「やっぱそうじゃないとなぁ、雫は。雫みたいな静かさを持たず、滝の様な強さを持つやつじゃなきゃ」
「なっ」
 真面目な顔に戻って少年は、少女の手を取る。
「大丈夫、俺がついてる」
「うん。……べ、べっつにあんたがいるから平気な訳じゃ無いんだからね!? 皆がくれた千羽鶴のお陰だからね!!」
「分かってるよ」
 少年は、微笑んだ。

 翌日、少女の手術は。
 成功し、失敗した。
 少女の意識はその日。
 遠くへと出掛けた。
 いつ帰りくるのかは。
 誰にも、分からず。
 ただ時間は流れ行く。

 三日が、過ぎ。
 一週間が過ぎ、
 1ヶ月が過ぎ、
 少年の誕生日を越え、
 夏休みが始まって、
 少女の誕生日を越え、
 一年間が過ぎ、
 二年間が過ぎ、
 三年間が過ぎ。

 少女が意識を失ってから四回目の、彼女の誕生日を迎え。
 その日も少年は病室にいた。
 花を花瓶にさしながら、ふとよくない思考が頭を流れていくのを感じる。
 ──もう雫はダメなんじゃないか。
 と。
 そして、首をふった。
 ──そんなはずはない
 と。
 ──雫と約束したじゃないか
 と。
 そして、少年は、雫の言葉もいままで信じてこなかったものも全て含めて、信じようと決めた。
 神も信じよう、と。
 三つお願いした少女同様に、自分も三つ、神にお願いすることにする。叶わなくてもいい、ただ願うだけで自分は、少女を信じられる気がした。
「神様、俺にあいつを信じ続ける為の意志の力をください。神様、あいつを返してください。神様──」
 目を閉じて手を組み、顎を引き。
「神様、俺たちに幸せを、ください」
 その姿は、さながら聖職者の様。

 翌、少年は再び昔のように少女を信じる強固なる意志を示した。
 翌々、只の幻か、少年は少女の瞼が動いたように感じ。
 願って三日、そして願いは叶う。

 売店で夕食を買って戻ってきた少年の眼は、空を眺める少女の姿を認めた。
 きれいな夕焼けを見つめ、ただ見つめ、涙を流している。
「雫……? 雫!!」
 約三年半の間に伸びた長い髪を払い、涙を拭って、少女は振り返った。
「涼……。今日って何年何月何日?」
「二○○X年9月4日」
「三年半か……」
 手に持っていた袋を机におきながら、少年は頷く。
「あんたよく待ってたわねそんなに」
 そういう少女は嬉しそうに微笑み、少年もつられて笑う。だがその笑顔はどちらも、泣きかけ。
「待っててって言ったのはそっちじゃないか」
 笑って細まった目から涙がこぼれてしまう。
「なくなよ馬鹿男だろ」
 雫は堪えきった。
「泣けよ馬鹿女だろ」
 軽口には軽口を返し笑う少年。
 そのまま続けて、
「ベタなセリフで悪いけどさ、もう離れたくない。もう放さない。……ずっと一緒にいような。──好きだよ、雫」
 ゆっくりと少女に近づき、
「お帰り……」
「ただいま」
 口づけを、交わす。

 三つのお願い、
 魔法の言葉、
 三つのお願い。
 


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