しゃぼん玉。

□Don't send letter for You.
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 先週、突然文通が途切れた。
 今まできたらすぐ返信の流れで成り立っていたそれがある日相手側から、何の断りもなくに切れたのだ。
 悲しかった、どころではなかった。哀しかった。
 相手はかつて自分と同じ、この町にすんでいた幼馴染みだった。
 引っ越したのは小学校に入学したとき。それから二人は拙い文字で手紙を交わし、数年に一度会っていた仲だ。両者が高校生となった今では、もうかれこれ五年会っていないのだが。
 しかし哀しかった。
 二人は携帯電話を持ってはいたし、メアドも番号も互いに知っていた。
 しかし、手紙にこだわったのは何でもない、彼がその遠距離恋愛のようなむず痒さを、ただ味わっていたかったからだ。
 そうして続いてきた習慣を壊すのが、怖い。
 彼は結局、文通遮断から丸一週間たった今日となってなお、連絡をとれずにいた。

 全てを、壊すんじゃないか。

 携帯を片手に電話帳で、文通相手の、彼女のページを開き、
 その指は何時までも、発信キーを押せなかった。

 シーズン的に、なのだろうか。どこへ行く気にもならない。
 唯一いきたくなるところといえば、プールだ。
 冷たい水を浴びて伸びやかに泳げたら、気持ちいいだろう。
 だがそこへ行けばカップルの山だ。付き合っていたわけではないにしろ、気にしていた相手と連絡がとれなくなった状態の彼は、そんなところに行きたくなどない。
 きっと友人といったってやつれるだけだ。
 勉強する気にもならない。
 部屋にはクーラーなどないからやはり、ここにいる気にもならない。
 一通り考えてみて、彼はベッドから起き上がった。

 半刻がたって、彼は佐々木商店と記された看板のかかる店の前にいた。
 毎月一度はくるバイト先──もとい、お手伝い先。
 単なるバイトと違うのは、給料が現物支給だからだ。
 与えられるのは店で扱う商品がただになる権利、クーラーと寝具その他多数の物品が付属の部屋一室。
 ここは学生の下宿を兼ねているのだ。
 入り口の戸を引いて、彼は呼ぶ。
「実里さーん」
 待つこと三秒。
「あぁーい、どうせ慧でしょ入んな……。いい仕事がある」
 言われるがままに彼──慧は裏口へと回り戸を開く。
「よくきた慧」
 以外に思った。玄関開けたところで実里がキチンと出迎えてくれることなんて、史上初だ。
「驚くな、仕事があったからだよ」
 実里は長い髪を振って斜め後ろの床を見る。そこにあるのは段ボール二箱。
「明日から越してくる人のだよ。女の子だからなかは覗くなよ? っから仕事ってぇのはそれを203へ運ぶことだ」
「俺ののとなりか」
「……そうだな、ま、運べ。明日もこい出迎えだから」
 適当に頷いて、慧は段ボールを運んだ。
「終わったら自由に過ごしな」
 実里さんはバイト内容がそれだけであることを告げ、去った。

 その夜慧は悩んだ。
 電話の上で指がさ迷う。
 どうしようもないことなのだ。
 向こうには彼氏ができたかもしれない。
 なにもできないのだ。自分は何でもないただの文通相手なのだから。
 何をすることもできない。
「沙紀……」

 翌日は晴れだった。
 実里に指示された時間に商店へ行く。
 そこには比較的長身で細身、整った顔つきの少女がいた。見とれるように美しい。
 挨拶を、と思った。
「初めまして、若宮慧です」
 少女は表情を三転させ、それからいった。
「はじめましてじゃない。慧、久しぶり。沙紀です」

 慧が動き出すまでに三分、
 赤みが引くまでに十一分。
 それから彼はいった。
「犯罪……だ」
 

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