しゃぼん玉。

□15年目の告白
1ページ/1ページ


 15年しかいきられない。
 世界は戦いのはて、核爆弾──放射能で荒れた焦土の上で、数百年前人間だったものは暮らしていた。
 人間から派生したそれらは、外見こそ変わってはいないものの、暑い気温に適応し、水分は微量摂取でよし、さらには酸素量まで少なくていいから──と進化して、退化したのか、
 15年しか生きられなくなった。

 戦争をテーマにした道徳に関する教材に書かれた夢物語だ。
 この星にすむ人間は誰だって知っている。しかも、子守唄化していた。
 大体、今現在の人間は60年以上生きて当たり前、水は大量に摂取する。
 先生だって語った。
「こうならないようにするため、皆さんに読んでもらってるんです。12歳まではこの国日本に住む以上、小学校に通います。そのあとは三年しか生きられないんです。そんなの、いやでしょう?」
 みんなでそのあと元気よく返事をした気がする。
 そして僕は今日、15歳になった。
 もし人間があの話の通り15年しか生きられなかったら、もう僕は死んでいる。
 今日までが平和でよかった。
 明日からも平和で在るよう。
 黒板にも字を書きつつ話す教師の声も聞かず、瞼を閉じて願う。
「このように、我らが惑星、水の惑星である火星は、四つめの惑星なんですね〜」

 人類の祖先、アウストラロ・ピテクスは地球で誕生した。
 人間、そう呼ばれる生物が誕生したのも地球だった。
 しかし地球で人類は愚かにも戦いを繰り返し、人間の生息する環境から遠いものへ星を変えた。
 そして地球を捨て、火星へと移り住んだ。
「それができたのは15年まで縮んだ寿命と引き換えに得た耐熱性と乾燥に対する適応力があったからなんだ。子守唄でもない、夢物語でもないんだ。それは本当にあったことなんだよ」
 帰宅するや否やリビングでミニテーブルの自らの向かい側、僕を座らせた父はそう語った。
 ただそれは本来在るべきではない事実。
 しかし事実とは隠蔽してはいけないもの。
 それ故に15歳になると同時に伝えると、世界方針が決定された。
 加えて、もうこれを繰り返しはしないようにしよう、そう決まったのだ。
「次に伝えるのはお前の仕事だ。子に伝えるんだぞ」
 そんな父の台詞は聞こえていなかった。
 ──人間は地球で生まれた!?
 ──この火星じゃなくて?

 そして僕らは数十年、
 再び地球へと舞い戻る。
 焦土と化した火星を、
 過去の地球の様に捨て。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ