しゃぼん玉。
□日常の1コマ
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一緒に街を歩いていると、嫌でも目立つ。
僕のとなりを歩いているのは、長めで栗色の髪が特徴的なかわいらしい女の子だ。たいして僕はほとんど特徴もない、平凡な人間。誰が見たって、違和を感じるだろう。
「で、次はどこにいくのさ」
正直いって僕はもう、彼女と買い物をするのに、疲れていた。いったいどうしてこうも長いのだか。
「次はねぇ……。むー、あのお店!」
何も考えていなかったのだろう、パッと見で入る店を決めていってしまう彼女。僕はあとをついていく。両手はもう一杯だ、何も買わないでほしい。
「みてみてー♪」
先に入っていた彼女は、僕に水着を見せる。これからのシーズンに向けて、誰かねらう男でもいるのか、ビキニ。
「……いいんじゃない?」
「てきとー。じゃ、他のにしよっかな〜」
手あたりしだいに体に合わせて、その都度彼女は僕に聞く。水着の良し悪しなんて僕にはわからないのに、困る。
「あ、それかわいいんじゃない?」
所々にフリルのついたピンクの水着を持つ彼女に、声をかけてみた。
本当? と彼女は笑った。
「じゃあこれにする!!」
彼女はすぐに会計を済ませて僕に袋を渡し、再び僕らは歩き出した。
そして奴は現れる。
「手ェあげろ!」
広い歩道の中央、僕等から10メートルほど離れた先で、奴はリヴォルバーを片手に、周囲を睨む。
「座れ! 手ェあげたままだ!!」
大人しく二人で一緒に座る。
彼女が僕の手を握った。
「そうだな……」
奴は周囲を見回して、僕等の繋がれた手を見、汚い歯を見せて笑う。
「女。そこのかわいい嬢ちゃん。こっち、こい」
彼女は震えながら細い声を発する。握られた手が少し痛いくらいに、固く体が強張っているのを、感じた。
「なんで……、私?」
「人質は一人近くにいりゃぁいい。早くこい!」
わずかに音をたてて彼女が立ち上がる。だから僕も立ち上がる。彼女の前に立って手を離し、男と対峙する。膝が震えた。
「**は人質になんかさせない。下がってて、**」
「あァん? 死にてえか!?」
奴の手にある拳銃の口が僕へと向けられる。まっすぐに。
「……殺せばいい。僕を殺せる覚悟があるならやればいい。……**は僕とって僕より大切なものだ」
「だからなんだ? 二人殺せばいい話だろ」
「……それ、リヴォルバーだってことは単発式だろ? 打って僕が倒れてアンタが次を打つ前に、アンタは誰かに取り押さえられるよ」
はっ、と奴は呟いて、
「なら、試してみるか?」
「別に僕はいいけど?」
膝の震えは止まってる。
「よくない! 私がいけばいい話じゃない!!」
「……耳が痛いよ、**。いいから座ってて。前を見ちゃダメだよ。さ、おいで、糞男」
振り向きはしない。死ぬのが怖くなるから。両手に持っていた彼女の買ったものを、地面に置く。
「ちっ」
辺りに、何がが破裂したときのそれとよく似た音が、響き渡る。
弾丸は僕の脇腹に傷をつけ、そのあと人々の頭上を越えて、ドラッグストアの壁にめり込んだ。
久しぶりに僕は、
──嗚呼、怒ってるんだ。
思いっきり、人を殴った。
拳が奴の鼻と前歯を折る感覚がして、僕はさらに対の手で腹を殴る。蹴りを入れて奴がよろめいた隙に、リヴォルバーを奪う。
「誰かがいってたよ。銃を撃っていいのは撃たれる覚悟があるやつだけだ、って」
奴は意識を失っていて、返事はなかった。
あとで分かったことだけれど、奴は弱体化して解体された暴力団の幹部だった。なるほど、弱くなった理由がわかる。
そして僕らは今、海にきていた。買ったばかりのビキニをきた彼女が思ったよりかわいくて、僕は顔が赤くなっているのを感じる。
彼女はあのとき、頭の中が真っ白で、なにも覚えていないという。多分それでいいんだろう。いつかきちんと伝えたいから。
「なにしてんのー? 早くー」
海にきていてもやっぱり彼女は我が儘だ。だけどそれでもいいように思う。それでこそ彼女は彼女だし、それに──
──それに、彼女の命の価値は僕より上なんだから。
僕は手を振る彼女のもとへ走る。彼女は僕の手をとって笑った。
今日も僕らは平和に生きる。