しゃぼん玉。

□悪戯。
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 僕はおかしい。狂っている自覚をしている時点で僕は冷静で、狂っている自覚がある。僕が狂っているからこんな状況があり得るのだろうけど、本当に狂っていたら冷静にこうして考察を述べることはできなくて、あり得ない。全てが矛盾しているのか、僕が全てに矛盾しているのか。
 僕はカーテンを閉じきって蒸した部屋の中、毛布を体に巻き付けて汗をかきながら床に立っていた。入り口のドアは鍵をかけて閉じてあり、その上ノブに手錠が架かっている。反対側は棚に食い込んでいた。
 時計の針は午後三時を指す。
 そういえば朝から何も食べていない。成る程、腹が鳴るわけだ。
 気づいてしかし、僕は別に何かを食べようとは思わない。狂っている僕には味覚なんて無くて、だから何を食べても美味しくないんだと分かるくらいには冷静だ。
 何で僕はこんなことをしているんだろう。
 自問しても、再度自問しても、三度自問しても答えは変わらない。
 狂っている自覚があるからだ。外に出たら自分がなにするか解らない。
 人を殺してみたいか? イエス。
 死んでみたいか? イエス。
 盗みを犯してみたいか? イエス。
 女を犯してみたいか? イエス。
 男と関係を持ってみたいか? イエス。
 たらふく何かを食べたいか? イエス。
 世界制服に挑戦してみたいか? イエス。
 僕にはしたくないことがない。
 この世界に対する一番の不満は、命が一つであることだ。溺死、圧死、窒息死、病死、衰弱死、出血死、ショック死。まだまだたくさんの死因があるのに、僕はそのうちひとつしか体験できない。
 ドアが蹴りつけられて爆音がした。
「開けろ貴仁!! 大層な名前貰っといてまた引きこもりか!? 張り倒すぞ!! 早う開けんか!!」
 僕はまぶたを下ろした。
「引きこもりじゃないよ、知里。僕は哲学を考えてるんだ。物騒な台詞で僕の崇高な思考を邪魔しないでくれるかな?」
「うっさい。開けなさい。3、2、1」
 僕は迷うことなく壁から離れる。大事な体に傷でも付けられたら親にどう申し開きすればいい? 死ぬことを考えていたのに今度はこれか、やっぱり狂ってる。
 ドアは砕かれた。
 金の髪色を持つ、西欧の雰囲気漂わせた美少女は鼻息荒く、僕も蹴り飛ばされる。
「バカいってんじゃないよ!! アンタは……」
「知里。せっかくイタリア人のお母様に頂いた可愛い姿をしているのに全てがぶち壊しだよ?」
「誉めてんのか貶してんのかどっちだ?」
 僕は笑う。これでも中学の頃にはサッカー部のキャプテンでファンクラブもあった。今は演劇部。爽やかに笑えてる自信がある。
「からかってるんだよ」
「テメェ……!!」
 だって知里は可愛い。
 だから僕は毎回毎回暇なときには、彼女がこうして家にきてくれるように何かを仕掛ける。
 今回は狂ってる自覚があるバカヤロウになりきって演技をしてみただけ。僕はあんな難しいのは分からない。本の受け売りさ。
 毛布をほどいた僕はベッドに座って、左側を叩いく。
「さ、おいで知里。あぁカーテンは開けないで。お隣さんに知里の可愛い破廉恥な姿を見せてあげる気はないからね」
「バッ……!! 意思表明か??」
 僕はもう一度隣を叩く。
「一緒に寝よう?」
「……うん。優しく、な?」
 真っ赤な顔した知里が隣に座って、僕らは唇を重ねた。舌を絡めて濃く熱く。
 いつも思う。偶々ボールを拾ってくれただけの君に恋をして良かった、って。君といるととても幸せだから。
 僕は知里の服を焦らしながら脱がす。白い肌にはまだ触れてあげない。だってその方が可愛い。んでもう僕は考えてる。どうせすぐに気持ちよくて忘れるのに。
 ──次は何にしようかなぁ……。
 知里は結局自分で脱いでしまった。
 

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