しゃぼん玉。
□キンモクセイ
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キンモクセイの香りが、花をくすぐる。また今年もこの季節がやってきた。でも三年目。今年で最後だ。
巷じゃ台風のせいで大騒ぎ、電車もとまって高校も休校。珍しいこと+嬉しいこと=暇人とかいう意味の分からない等式によって、俺は近所をぷらぷらすることを余儀なくされた。
家にいてもいいけど、それはさらに退屈だろうし。
でもちょっと後悔。
公園に一本だけ植わってるキンモクセイが、俺を呼んでる。
──想ひ出のキンモクセイ。
寂しい……。
ホントはこんなことしてる暇なんてない。受験生が10月にもなって、雨に濡れたキンモクセイの下で寂しさに耐えてるなんて、馬鹿馬鹿しい。
椿は俺たちが高校に入学する年、父親の転勤に影響されて福岡に引っ越した。
花の咲かないキンモクセイの下で、俺たちは約束した。
「俺たちは必ず、××大で再開する」
誰かに見られてないか心配しながらこっそりキスをして。
俺たちは、離れた。
××大は俺たちの両親、計四人の出身校。俺の親父だけ一個年上だけど、卒業そろえたくて留年したとか。だから俺と椿もそこにいく。今なお仲のよい四人に願を掛けて。
決して容易く入れるとこじゃない。でも決めたから、いく。
その半年前は、ちょうどこんなキンモクセイが咲いてた。
俺が呼び出して、なかなか告白できなくて、結局椿がキレながら告白してくれて。
──俺、なさけな。
二人で一緒にキンモクセイの花を集めて、布袋に入れた。でもそれじゃキンモクセイじゃなくて、ダメだなって二人で笑って。
その10年も前には、二人でこの樹に登った。椿のスカートんなかに頭突っ込んで足蹴にされて。頭を三針縫ったらしい。
椿は俺が悪いんだって譲らなかったとか、でも俺のために泣いてくれたんだとか。
三年間、高校生の間だけ離れる。それだけ。たった三年。しかも夏には会ってる。一昨年も、去年も、今年も。でもやっぱり寂しい。
春には桜を見て思った。
何で桜じゃなくてキンモクセイだったんだろう、って。
今分かった気がする。
椿はツバキじゃなく、同じ春の花である桜でもなくキンモクセイだったんだ。
椿とそっくりな暖かくて甘い匂い。だから俺は吸い寄せられた。多分。ただ離れてて、思いでの場所だからそんな気がするのかもしれないけど。
こんな俺見たら椿、何て言う?
──ばーか。あたしだって寂しいの。
違うよなぁ……。んじゃあ、
──ばーか。あたしは別に寂しくないし。弱虫♪
違う……?
──ばーか。んなことよりさっさと勉強しなさいよ。
これだ……!!
……勉強しますよ。ハイハイ。
ちょっぴりブルーな気分だけど。キンモクセイの香りを抱きしめてもう少し、待っててあげるよ、ちゃんと。