しゃぼん玉。

□Cat.
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 帰り道の途中に、段ボールへ入れて捨てられた子猫を見つけたのは3日前だ。今朝までは確実にそこにいて、見つけたときより元気になっていたのに、
 ──いない。
「ミニマム〜〜!」
 授業中に考えた名を呼べども当然出てはこない。
 少年はその場に傷だらけのランドセルを置いて、近くの畦道へ歩みを進めた。
 子猫は一匹、真っ白にベージュの斑点が入っていて、目が大きい。かわいくて少年は毎日給食のパンと牛乳を残して隠し持ってきていた。なのにいなくなった。
「ちゃんとここにいろって言っただろ……」
 その呟きには少しだけ、怒りが混じっているようだった。
 最初の日の晩、両親に飼うことを許してもらおうと話をした。だが、両親はおろか、姉までもが、
「あんたはどうせ世話しないからダメ」
 と、取り合わなかった。
 確かに、カブトムシ、クワガタ、ハムスター、金魚と、飼いはじめてすぐ飽きたペットは多い。そしてそれらはすぐ死んだ。でも。
「ミニマム〜〜!!」

 靴をはいて彼女は、制服のスカートを伸ばした。
「早くいってやりな、泣いてるかもしれないよ」
 玄関に仁王立ちする母の足元には一匹の猫。少女が持ち帰ったもので、今朝までは通学路の畦道で段ボールに入っていた。
「はーい。いってきまーす」
 少女は軽快に自転車のペダルをこいだ。
 しばらくしてたどり着いた、子猫が元々いた段ボールの近くに人気はなく、少女はそのまま小学校へと自転車を走らせる。
 弟はきっと喜んでくれると、信じて。
 だが。
「もう、帰りましたよ?」

 少年は広い田畑の中迷っていた。何となく見覚えのある風景に、家の方へ歩いてみても森があるだけ。家にも帰れない。目印になるはずのランドセルも何処にもない。
 烏が鳴く。
「……っ」
 途方にくれて沈み行く太陽を見やる。
「太一!」
 名前を呼ばれた気がしてふりかえった。
 自転車に轢かれた。

「ニャー」
 傷だらけになった少年の肌を、ミニマムがなめる。
「飼っていいなら最初からそういってよ!」
 怒る彼に、母は笑いかける。姉もまた同じように笑いながら、ミニマムを撫でた。
「飼えるか試してたのよ、あなたを」
「ふん!!」
 何もわからないミニマムが、不機嫌そうな少年を叩いて、みんなで笑った。
 
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