Cross Point Side-O

□1章
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 陽光を肌とまぶたの裏で感じて、少女は起き上がった。
「おはようございます……?」
 視線の先でカーテンをまとめていた青年は振り返り、そしてすぐに少女の左側、巨大な絵画のかかった壁の方を向いた。
 これに不満と違和感を感じないほど、少女は広い心も鈍感さも持ってはいない。第一、いつもならにこやかに青年は続けて朝食のメニューを語ってくれるのにも関わらず、一体どうしたというのか。
「……何で私の方を見ない? 和人」
「な、何でと言われましても……。申し訳ございません、パジャマのボタンを閉めていただけますか?」
 青年──片桐和人は焦りのためか、ひどく細い声で返した。
「ボタンを閉めろとはどういうことだ?」
 いいつつ少女は顎を引いて、自らの着るクマ柄のパジャマを見る。
 ボタンが上から数えて3つ、開いていた。下着をつけていない胸部が、かなりキワドイ。
 一瞬で羞恥に顔を紅く染め、呼吸も落ち着かぬままに少女はボタンを閉めた。
「し、閉めたぞ。……和人」
 ゆっくり疑うようにしつつ少女の方へ向き直った和人の顔も、少し紅い。
「お、おはようございます、美憂様。本日の朝食は……ぇと……」
「別に忘れたならそれでもいいよ、和人。……さて、それじゃ着替えていくから。先に食堂いってて」
 告げながら少女──霧島美憂は立ち上がった。先程まで背に隠れて見えなかった腰まである茶髪があらわになる。華奢な体躯とまだ幼さの残る顔立ち、そして長い髪が組合わさった彼女の姿は、かわいらしい美少女と形容する他、表現のしようがない。
「も、……申し訳、ございません」
 その様子にわずか見とれて、それから和人は退出する。
 ほんの少しだけ、それを残念に美憂は思った。
 寝巻きを上下脱いで、着衣ははショーツ一枚になる。
 普段はこんな着替え方はしないのだが、自分の裸体を見るにはやはり、こうするしかないだろう。
 細くやや長い足。白磁のような肌。胸の膨らみはまだわずかだが、美憂は母親が豊かだったことから、これからさらに成長してくれるはずだと、信じている。
 十分すぎるほどに魅力はあるだろう。事実、今まで告白された回数は数えきれない──付き合ったことはないのだが。
 ──なのに、どうして。
 美憂は鏡の前で、一回転してみる。
 いままで、肌を見せなかった相手の心でさえ無数に手に入れた美貌は、確かにそこにある。
 ──なのにどうして、和人は私を女に見てはくれないのだろう。
 今年で美憂は18歳になる。和人は21だ。3つしか歳は離れていない。しかし和人にとって3歳差というのは、対象外なのだろうか。
 数えてみればもう、4年もの間を二人だけで一つ屋根のした生活している。だがしかし、和人が美憂を求めたことは一度もない。今日のようなことがあったのも初めてではないが、それでも和人が美憂に襲いかかるようなことは一度もないのだ。
 この事実の前には、学院一の美少女などという肩書きこそあれど、なんの役にもたたない。
 ──私は和人にとって、ただの主人でしかないのか?
 ──和人は私などを好いてはくれないのか?
 悶々と一人悩み始めたところで美憂の耳に、8時を知らせ鳴り響く鐘の音が聞こえてきた。
 我に返った美憂が恥ずかしさのあまり赤面して、恐ろしいスピードで服を着だしたのはいうまでもない。
 
  ◇
 
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