しゃぼん玉。

□Continue?
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1ー1

 カウンターの向こう、自動ドアと歩道を越えた先に、白と赤で塗装された車が数台、白と黒で塗装された車も数台、止まった。
 救急車が道の真ん中に、パトカーは道を塞ぐようにして、そしてやはり車を止めていた。
 救急車から降りてきた救命士が、すぐに担架へ人をのせて帰ってくる。それから数秒で走り出した。
 でかい事故だな。
 カウンターのなか、彼はそう思った。自分には別に関係ない、あんまり人が死ななきゃいいけど……、位にしか事故をとらえていない。
 しかしそんなの甘い考えだった。
 彼のバイト先であるこの店は、幼馴染みの少女を子に持つ夫婦の営むケーキ屋だ。
 通う高校が近いから彼はもういるだけで、少女だってもうくる時間になっている。
 ここで働くよう彼に言ったのは、やはりその少女だった。
 今は、担架に乗っている。
「柚葉!?」
 叫んだ彼、反応するコック、店長でありコックの妻の女性は頭を棚にぶつけた。
「柚葉!!」
 店長に許可をとったりなどしなかった。
 白いエプロンを身に付けたままカウンターを出てドアを開けて、救急車に近づく彼。数瞬遅れて続く夫婦。
「柚葉!!」
 救命士の一人が気づいて近寄ってくる。
「ご家族の方ですか?」
「……いえ」
 婚姻などしていない。ましてや思いを伝えたこともない。
 しかし、夫婦は彼の返事に続いて言った。
「はい。こいつもです」
 娘はやらん、そう彼に喧嘩を吹っ掛けるのが日課である少女の父、竹蔵は彼の肩にてをおいている。
「申し訳ありませんが、お一人しか同乗できないのです……」
 救命士はうつむく。
「竹さん」
 彼は呼んだ。すぐに肩を強く押されふらつく。
「お前が行け坊主」
「でも……」
 竹蔵は軽く彼に蹴りをくれてやった。
「迷ってる暇はねぇんだよ。景、行け」
「……はい」
 彼──宮崎景は救命士のあとを追って走り出した。
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