SS

□am Freitag
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「貴方に“安息日”は無いわね,セバスチャン。」


月明かりだけが照らす小さな部屋。
1週間ぶりの逢瀬に,会えなかった時間を埋めるかのように交わった後,私は唐突に切り出した。

彼は既にお屋敷から支給されるというワイシャツを羽織って,勝手に私の為に紅茶なんかを用意している。


「…はい?」


“悪魔”と一目で分かる,赤く穢れた瞳が,すいっと私を流し見た。
彼が正体を隠しもせず私の前で“悪魔”として居るのは,私もその類だからだ。

ただ私は,人間の魂なんかに興味は無いし,人間の魂なんて食べなくても人間と同じように生きられる類だった。


「今だって…坊っちゃんのこと,考えているんでしょう。
貴方って案外分かりやすいところあるのね。」


クスクス笑ってみれば,良い香りが鼻をくすぐった。

差し出されていたのは,私の大好きな,ダージリンの紅茶だ。

「貴女に悟られてしまうようでは,私もまだまだですね。
まあ…貴女が特別鋭いような気もしますが。」


起き上がってティーカップを受け取り,一口。


(…美味しい。)


その間,彼は私の頬を優しく撫でている。
私と会うとき,彼は執事の手袋をしていない。
冷たい手
のひらの感触を直に頬に感じ,私はウットリと目を閉じる。

先ほどまで,その綺麗な指が自分の身体を撫でていたと思うと,少しだけ恥ずかしくなるけれど。


「否定はしないわ。それで?
今度はどんな難しい“お使い”を頼まれているの?」


「難しくはありませんよ。」


彼は話し始める。

いつものように,『内緒ですよ』,と長い指を私の唇に添えてから。

彼が言うにはこうだ。

菓子玩具メーカー・ファントムハイヴ社の掻き入れ時であるバレンタインデーを終えて,売上のチェックを入れたところ,売れ残りが幾つかあった。

その数も両手の指で数えきれるくらいで,他社にとってみれば売り上げは上々と言えるのだろうが,ファントムハイヴ社の社長がそれを許すはずもない。

それはまた改良や研究をするとして,その余ったチョコレートをどうするか,ということだった。
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