‡ZERO‡

Act.13 白雪姫は拳銃がお好き?
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同級生たちは、その声にいそいそと着席しだした。同級生たちが着席し、静まり返ってから漸くどこか躊躇うようにエースが顔を覗かせた。
彼が顔を見せた途端、ホウプは身体を固くし、アレクサンドルは射抜かれそうなほど強い眼光でエースを睨み据える。その視線に気が付き、エースはびくりと肩を震わせた。しかし、エースの目は好奇と好事の入り混じった目でホウプを見やる。その視線は、まるで実験動物をねっとりと見回すような粘着質なものだ。
粘着質な視線だけで、わかる。おそらく、もうエースの耳にも自分が朱雀であるということが伝わったのだろう。
その視線から少しでものがれたくて、身を捩るホウプに気が付き、アレクサンドルはホウプに向かって手を伸ばした。ホウプは暫し躊躇したが、その行為に甘えるようにアレクサンドルの服の袖をちょんとつかんだ。
敵と同じ場所にいるなど、本当なら自殺行為だ。けれど、先日起きた一件のおかげでホウプは学校に通うことができていた。下手に学校で手を出してしまえば、アレクサンドルの耳にも入ってしまう。アレクサンドルはシェレメート家の貴族だ。その私財を使い、彼はエースの身辺を調べるだろう。そうなれば、ずるずるとデルタ帝国のことも明らかになってしまう。彼らにとって、それはもっとも避けたい案件のはずだ。だから、エースは下手にホウプに手を出すことが出来ず、知的好奇心を持て余しているというのが現状だ。
だから大丈夫。それでも、頭に過るのはエースではなく、あの青い髪の男だ。
ホウプは、小さく息を吐き出した。
エースの思考を汲むことは案外難しくない。彼のロジックは知識に傾倒している節がある。だから、一般論と至極普通の感情論、そしてベストではなく、ベターな対応を想定すればいいだけなのだ。彼は、少しでもデメリットがあれば、ベストな道ではなくベターな道を選ぶ。それは、失敗の許されない危険な薬品を扱うこともある科学者らしい思考である。だから、一般論で片づけることができる。
嫌なのはあっちの男だと、ホウプは目を細めた。
彼の思考回路は単純明快である故、とても手に負えない。彼にはロジックも、感情論も一般論も通用しない。下手に頭のいい人というのは面倒だ。
あまり彼のことは考えたくない。そこまで考えてやめることにした。しかし、幾分か遅かったらしい。
ホウプは、自分の手が小刻みに震えているのを見て頭を抱えたくなった。彼の思考を読もうと思考すればするだけ、奈落につながる穴を覗き込んだ気分になる。その穴の深さと広がる闇に息を飲んでしまう。その闇は、手を伸ばしてこちらを誘うのだ。まるで、不思議な国に迷いこんだ少女を誘う奇妙な猫のように。結局、お前もこちらに堕ちてくるんだからと、至極楽しそうに。
震えそうになった手をアレクサンドルが強く掴んだ。そのおかげで、漸く思考を浮上させることができた。

「大丈夫か?」
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