‡ZERO‡

□Act.14 アダムとエヴァ
1ページ/22ページ


表情筋を動かして、つくる。これは、笑顔?
嗚呼、駄目だ。喜びとはこんなものじゃない。
理解できない。
どうして、なんて分かりきってる。僕には"心"がないから。"人"とは違う生き物だから。
でも、理解したい。
そうすれば"彼"は、笑ってくれるだろうか。



Act. 14 アダムとエヴァ



なに。
身体が動かない。視界が掠れる。意識が飛ぶ。
ずりっと少しだけ身体を動かす。
こちらを見下ろす何かが蠢く感覚。

「呆気なく捕獲できたな、エース様の仰った通りだ」

「おい、油断するなよ。さっさと済ませるぞ」

首に何かが嵌められる。
駄目だ、意識が保てない。
影が、何かをいっている。もう、聞き取れない。
蠢く影が、口を歪ませ笑った。
嗚呼、そうか僕は。
其処まで思考が至った瞬間、ぶるりと身体が震えた。暗い水底にいるかのような意識が浮上する。
目を開いた瞬間、焼けつくような眩い光にうめき声をあげてしまう。
此処は。

「気がついたか?」

見馴れた緑の髪。折り目ひとつ見当たらない白衣。
エース先生。そう呟いたはずが、いっこうに喉が震えない。声が、出ていないのだろうか。
なんだか、身体の感覚がおかしい。まるで自分の身体が雲になってしまっているかのようだ。在ると知覚出来ているのに、その存在は曖昧としている。
気持ち悪い。
身体が自分のものではないようだ。上手く動かせない。
下手をすれば、肉体すら知覚が難しくなりそうだ。まるで、意識だけで存在しているかのような錯覚。
五感すべてが酷く曖昧だ。
こちらを見下ろしている影達が笑う。好奇の入り交じった好事家のような目でこちらを見下ろす。いつもなら、それを不快に思うはずだが、霧がかかったような頭ではそれすら難しかった。
現状すら理解出来ない。ただ、伸びてきた手が乱雑に上着をはぎとったことは理解できた。
そう言えば、鞄にいれていた団服は無事だろうか。あれがないと、仕事にいけない。あれがないと。
ぎしりと何かが鳴る。
動かそうとした四肢が何かに阻まれる感覚。顔を動かしてそれを見遣る。台座に固定された枷が、身体の動きを制限しているようだ。
煌々と照らされる照明の下、身動き一つ出来ずにいる僕は、まるで。

「実験を始めようか」

影の一つが、嬉しそうに声をあげた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ