‡ZERO‡

Act.16 パラダイム・ロスト
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君が泣いてたら世界中の誰より一番早く駆けつける自信があるよ。
君が名前を呼んでくれたらどこにいたって聴こえるよ。
だから、約束しよう。
必ずきっとまた迎えにくるから。
それまでお別れしよう。
世界で一番大切な君。


【Act.16 パラダイム・ロスト】


その日は特に変わったことのない日だった。
支部での事後処理も終わり、穏やかに過ぎる日々に平和ボケしているのを感じながら、ホウプはソーロや黒騎士の仕事を手伝っていた。
穏やかすぎると、どうしてもZEROのことを思い出してしまう。
心配してるだろうな、ご飯ちゃんと食べてるかな。そんなことを思いながら、忙殺する気かと疑いたくなるほど積み上げられた三幹部の書類を纏めていく。纏めるだけならまだしも、彼らはこれに目を通さなければならない。僕が見ても大丈夫な書類なら、もう少し書類を皆で細分させてもいい気がする。細分化大事。
ホウプは、机に齧りつくように仕事をしている二人を見やった。
三幹部の執務室には机が三つ並べられている。一応一人一人執務室はあるようなのだが、三幹部の書類が纏めてこの部屋に運ばれてくるため、途中で面倒くさくなり机を三つ分新調したらしい。そのため、机はまだ真新しいのだが使用頻度が高すぎて既に擦りきれている。
二つの机に積まれた書類は確実に量が減っているのだが、残り一つの机には書類が溢れかえっており、床にも何棟か書類の山が建設されている途中だ。ホウプは、残念ながら今までこの机が使われている姿をみたことがない。しかし、昨日まで確かに積み上げられていた書類が、一晩で忽然と姿を消しているので一応期限までには仕事を終わらせているようだ。
あの支部から帰ってきてから、顔を合わせる機会はあったものの、ちゃんと話をしたことはない。
ルードのことやシエルザードのことは、まだ上手く割りきることが出来ずにいるが、こうして穏やかに過ごすことができているのは間違いなく彼のお陰だ。握りしめられた手の温もりをまだ覚えている。それほどまでに、あの時の僕にとってあの温もりは大きな意味をもっていた。
それに、一つの仮説を彼に話してみるつもりだ。本当は、もっと早く話しておくべきだったのかもしれない。ずっと影のように付き纏っていたそれは、すでに此方を捕らえて飲み込もうと蠢いている。もう見て見ぬふりはできない。
そんなことを考えていたせいか、さくっとした嫌な感覚が指先に走った。
あ、と思う暇もなく指先から血が流れてくる。慌てて書類を避け、作業していた机から離れた。

「何してんのよ、トロいわねぇ!ほら、早く絆創膏はりなさいよ」

ソーロがわざわざ作業を止めて、此方に絆創膏を渡してくる。有り難さといたたまれなさに泣きそうになりながら、ホウプは有り難く絆創膏を受け取った。

「すみません、有り難うございます」

「アンタ今日はもう休みなさいよ。支部から帰ってきて、休みなしでフル稼働してるじゃない」

別に好きでしていることだから構わないと食い下がる前に、黒騎士が無言で頷き続けているのを見てしまい言葉に詰まる。あの無言の主張はどうも逆らいがたいのだ。
それに、なんというか責任も感じている。
支部へ送るための魔力供給で倒れた兵士達の仕事がまわってきているから、ただでさえ多い仕事がさらに増えているのだ。
ルードが暴走したのは自分に責がある。だから、出来ることはやりたいのだ。
しかし、それも見抜かれているのかソーロのと黒騎士の無言の圧力により、すごすごと執務室から退散することになった。
あの二人が忙しいとなると一人で無闇に出歩くわけにはいかない。大人しく部屋に戻ることにしたホウプは、寄り道することなく与えられた自室に辿り着いた。
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