‡ZERO‡

Act.6 異世界の住人
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「ちわー。運び屋でーすっ」

暢気な声と共に指令室の窓から入ってきた侵入者に、ZEROの団隊長のホウプは持っていた湯呑みをひっくり返しそうになった。
それというのも、この指令室はZEROの団の最上階に位置しているからだ。落ちれば即死、または崖の下に落ちて溺死、海にいる魚人に食われてしまう可能性すらある。
呆然と目線を向けるホウプに気づき、侵入者は喜色を顔に浮かべた。


「ま、待って!アークさ…ごふっ!」

「ホウプ〜!久しぶり〜久しぶり〜!」


アークレインは制止を振り切り、喜びで今にもはちきれんばかりの勢いのままホウプに抱き着いた。衝撃をまともにみぞうちに食らい、失神しかけているホウプを無視して、アークレインはまるで犬のように懐く。可愛いが躾のなっていない大型犬のような男を強く叱れず、甘やかしてしまっている自覚はある。しかし、素直に向けられる好意を無下にできない。ホウプは、もうみぞうちの一つや二つ破壊されてもいい覚悟だった。
しかし、痛いものは痛い。
呻きながらアークレインの好意を受けとっているホウプを救ったのは、予想外にも指令室の主である団長だった。


「クソ犬。ふざけてねーで、さっさと情報渡しやがれ」

「はいはーい。あとウチのマスターより伝言、報酬は上等な酒じゃねぇと認めねぇ!だーって」


アークレインは団長に向かって紙きれを差し出した。薄っぺらい紙切れに表に出ない情報が書かれている。
その情報が役に立たないものなら突き返すつもりで、団長は忌ま忌ましげに紙を開いた。そして、紙きれに目を通した後団長は低くホウプを呼んだ。


「食糧庫の一番奥から酒とってきやがれ。あと、任務だ。言わねーでも分かってんな」

「はい、副隊長さんを呼んでくればいいんですよね、了解です。あ、アークさんお菓子とってくるから待っててくださいねっ」


ぱたぱたとホウプは床を鳴らしながら部屋を出ていく。翻る漆黒の外套から、ちらりと覗いた素肌には生々しい切り傷が刻まれていた。
それを見送り残されたアークレインは、にこりと笑いながら懐から投擲ナイフを取り出した。ぎらりと物騒な光を放つそれに、アークレインはゆっくりと指を這わせる。光を覆い隠すように赤い水が走った。それをどこか恍惚とした表情で見遣りながら、赤い水を赤い舌で舐めとっていく。
団長は眉間に皺を寄せ、嫌そうにそれを眺めた。


「なんでかーなぁ、殺せば簡単なのにさーなんでホウプは殺さないのかなぁ…」


赤い赤い水、命の証。
アークレインは、ゆっくりと団長を見据えた。珍しく真剣みを帯びた瞳が、猫のように細まる。それは、鋭いナイフを思わせた。


「此処は綺麗なままじゃ生きていけない世界だよねぇ。ホウプはこの世界にいないみたいだよ。消えちゃいそーだぁ」


ビィンッと鈍い音が空気を裂いた。
赤い血を纏った投擲ナイフが、デスクに突き刺さっている。
宣戦布告。
宣言にしてはいやに鋭利で物騒なソレから目線を外し、団長はアークレインを睨み据える。
へらへらと笑い、ふざけた口調を崩さない男の目から、焦りのようなものがかいま見えていた。悲愴を孕んだその双眸が自らの心情すら現しているようで苛々する。そのイラつきをごまかすように、団長は強く煙草のフィルターを噛み締めた。


「ホウプがどっかへ行っちゃったらー…俺、アンタを殺しちゃいそう。マスターに怒られるだろーなぁ」

「ンなもん、俺に言うんじゃねぇ。決めんのは、あのガキだ」


アークレインはへらへらと笑いながら、再び窓の縁へ足をかけた。


「ホウプに、お菓子と酒は学校で渡してって伝えといてー?じゃあ、まいどありぃ」


ひらりと舞うように男は外へ去っていく。
団長は精一杯の厭味をこめて、男が消えていった窓へ煙草を投げ付けた。





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