‡ZERO‡

Act.6 異世界の住人
2ページ/19ページ


生い茂る木々から伸びる若々しい葉が陽射しを遮断している。そのせいで、この辺りは昼間でも薄暗い。そんな森の奥に似つかわしくない真っ白な建物が目の前に鎮座していた。
ホウプと副隊長は、漸くたどり着いた目的地を訝しげに見据えた。
不釣り合いで、異彩を放つそれを注意深く観察していく。
四角い箱を思わせるその外観。おかしなことに出入口がどこにも見当たらない。さらにおかしなことに窓も見受けられない。それはまさしく、何かを閉じ込める箱のように見える。
森の木々に覆い隠されるようにひっそりと建つ白い箱。
団長から渡された地図が本当に正しいのか、二人はもう一度紙を確認してしまった。
古ぼけた紙には、乱雑かつ簡潔に地図がかかれている。そして、団長から言い渡された任務も単純なものだった。
「地図にかいてある場所に行って来い」と、何の意味があるのかよく分からない仕事だ。その後につけくわえられた言葉が物騒なものでなければ、二人は散歩気分でそこに向かっていただろう。
ふぅ、とホウプは深く溜息をついた。その腕には包帯が巻き付いている。その包帯を辿った先には副隊長がいた。その腕には、やはり包帯が巻き付いている。
二人は、包帯によって繋がっていた。団長がつけくわえた言葉、「絶対に離れるな」それだけならば、何もわざわざ包帯でお互いを繋ぎはしない。問題はその後だ。なんと、かの上司はあっけらかんと「離れたら二度と戻ってこれないと思え」などと宣ったのだ。
不安だ、不吉だ、不条理だ。


「気…進みませんけど、近づきましょうか?」


副隊長が、げんなりと言葉を漏らした。
正直、さっさと帰ってしまいたい。しかし、帰れば帰ったで地獄の惨劇が待ち構えている。
天秤にかけてどちらがマシかと言えば…。
ぶるりと身震いしながら、ホウプはゆっくりと頷いた。
問題の白い箱に近づくと、それは見たことのない素材で出来ていた。薄く発光しているように見えるのは気のせいだろうか。
副隊長は、ゆっくりとその表面を撫で、ぐっと力を込めて押した。


「何で出来てるんでしょうね。暖かい感じがするんですが…」


気のせいですかね?と、副隊長はホウプに尋ねた。
それを確かめるべく、ホウプもゆっくりとその外壁に触れた。途端、小さな電流が走り、真っ白な箱に魔術陣が浮かび上がる。
驚いて手を引っ込める前に、ホウプの腕が箱に吸い込まれていく。


「っ、隊長!」


副隊長は、包帯をたぐりよせホウプの腕を掴んだ。箱が淡く発光し、次の瞬間、ホウプと副隊長は箱へと吸い込まれた。
ふわふわとして地面に足がつかない。ぐるぐると身体の中で内臓が回っているような感覚に陥る。
気持ち悪くて、心地よい。暗くて、明るい。矛盾した感覚が身体に纏わり付く。
右も左も、上も下も分からない中で、ホウプは必死に副隊長を探した。その姿は見えないが、自分の腕を掴む温もりが副隊長のもので少し安心する。
急速に、重力が戻ってきた。次の瞬間、足が地面を踏み締める。靴底から伝わるその感触に、少なからず安堵した。
しかし、双眸に映りこんだ風景は、必ずしも安心できるものではなかった。
つるりとして光沢のある真っ黒な壁。真っ暗闇に包まれた部屋。足元を照らす青白い照明のおかげで、僅かに部屋の様子が窺える。
ホウプは、呆然とその場に座りこんだ。


「此処、どこ…?」

「少なくとも、さっきまでいた場所とは違いますね…」


働かない頭を叱咤しながら、副隊長もゆっくりと辺りを見回す。
その時、部屋に光が満ちた。瞬時にそれが魔術によるものだと気づき、ホウプは副隊長の腕を引っ張って机の下に隠れた。
どくん、どくんと心臓が跳ねる。頭が最悪の可能性しか弾き出さない。
そして、遂に憶測が確固たる真実として目の前に突き付けられた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ