‡ZERO‡

Act.6 異世界の住人
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「全く、なんでまた突然幹部様が来るんだ」

「三幹部の若造がここ3日帰らなかったらしいからな。帰ってきた今のうちに会議をすませたいんだろう」


緩やかに収束していく光の中、男が二人立っていた。その男達が身に纏う服。それは、一度だけ見たデルタ帝國軍の兵士が着ていたものに相違なかった。
男達は抱えていた書類をばさばさと机に置く。隠れていた真上の机に置かれたので、二人はビクンッと肩を跳ね上げた。
ホウプと副隊長が隠れているとは知らず、男達は話を続ける。


「ああ、士官学校卒業後すぐ三幹部に抜擢された奴だろ?」

「アイツが出た戦場は、そりゃあ酷い有様だったらしいな。士官学校時代は悪魔なんて揶揄されてんの聞いたぞ」

「ははっ、名前の通りって訳か」


三幹部、会議、戦場。飛び交う単語を聞き漏らさないように、全神経を耳に集中させる。
こんな場所で情報は大切な武器であり盾だ。
男達は書類を配り終わると、さっさと部屋を後にした。
それを確認した後、念のため数分待つ。しかし、出入口から人が現れる気配はない。
副隊長は、ずるずると机から這い出し、書類を失敬した。
こんな暗闇の中で紙面が見えるものかと心配したが、ぴらりと紙をめくると紙が淡く発光しだした。
しかし、紙は真っ白な空白を横たえて眠るだけだ。


「どうなってるんだ…?」


ふいに、その紙にホウプが触れた。真っ白な紙の上に手を滑べらしていく。その瞬間、じわりとインクが染み出していくかのように文字が現れた。


「うわっ、凄いですね。本当によく知ってますね、隊長!」

「え?あ…。知らなかったんですけど、身体が動いちゃって」


ホウプはまじまじと自分の手を見つめた。まるで、自分の手から答えが浮かび上がってくるかのように、じっと。
考え込むホウプの思考を遮ったのは、副隊長の小さな呻き声だった。


「どうしたんですか?」

「こんな文字、見たことないんですが…。確かこの国の古代文字に似てるとか言ってましたよね?」

「はい。やっぱり文字の形が変わってたり、解釈が違ったりするんですが、根本的な部分は似てると思いますよ」


そう言われても、副隊長にはミミズがのたくったような跡にしか見えない。神妙な面持ちでそれを睨む。が、早々に解読を諦め、訳の分からない文字が鎮座した書類を懐に押し込んだ。
今だに巻かれたままの包帯をするすると解く。もしこのまま戦闘になってしまえば、お互いの足を引っ張りかねない。
いつまでもぐずぐずしている訳にはいかず、二人は机の下からはい出て、男達が出て行った扉へ走る。
壁に埋め込まれたようなドアは、ホウプと副隊長が近づくと自らその身体を横へと滑らせた。
見えたのは廊下と、先程部屋から出て行った男二人だった。
一瞬、時が止まった。
お互い、目の前で何が起こっているのか理解できずにいる。ただ、呆然と相手を見つめた。
しかし、呆然としていたのは三人だけだったらしい。次の瞬間、鈍い音と共に男二人が地に伏していた。


「あ、すみません隊長、つい癖で…。どうしましょうか、コイツ等」


副隊長はあっけらかんとそう言う。
地には白目を向いて突っ伏す男二人。叫ばれなかっただけマシだ。
仕方なく男二人を真っ暗な部屋に引きずり込んでおいた。出来れば、目が覚めると同時に全て忘れておいてほしい。
そう思いながら、二人は先程よりも慎重に廊下へ顔を出した。
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