‡ZERO‡
□Act.7 朱雀、覚醒
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歩いていくにはきつい距離だったそこに赴く直前、何故か伝書鳩が汽車の切符を人数分くわえてやってきた。
差出人は、神父。
何故そんなことまで知っているんだと、感嘆するより恐れが勝る。
という訳で、みんなで仲良く汽車の旅となったのだが……。
晒される好奇の目線にホウプは泣きだしたくなった。
真っ黒い外套を羽織る集団というだけでも目立つというのに、面子が面子なだけに余計目立った。
厳つい体躯に、肉食獣を思わせる鋭い目つき。汽車の椅子に踏ん反り返って座る、煙草が切れて苛々が最高潮の男。その横には、時折びくりと震える、いかにも脆弱そうな銀髪の子供。この二人組だけ見れば、どう考えても人さらいとさらわれた子供だ。
しかし、その向かいの二人組はまだ若い女と男。女は蕩けるような笑みを浮かべ、男の腕にしがみつく。普通の男ならば、そのしなやかな身体を押し付けられて歓喜するはずだが、薄幸そうな顔をした茶髪の青年は声にならない叫びを発した後、青白い顔をしてがくんとうなだれた。
その四人組は、なんというか否応なしに目立つ。しかも一々騒ぐからさらに目立つ。
「早く…早く着きませんかね…」
ホウプがぽつりと言葉を漏らすと、団長は苛々と床を踏み鳴らした。
「早々は着かねぇだろ。あのクソ神父が寄越したもんだ、大方強盗かなんか…」
団長の言葉を掻き消すように、爆音が響いた。
それと同時に現れた拳銃を構える二人組の男は、乗客達に拳銃を突き付けてお決まりの台詞を吐く。
「金目のもんを出せ!抵抗すれば容赦なく撃つ!」
喚き散らす男を見て、副隊長はげんなりと肩を落とした。
「うわー…ベタだ…」
「ベタねー。面白みもないわね」
「ベタすぎて面白くもねぇから今度の任務を今ここで伝えとくぞ。聞かねぇと殺す」
のうのうとした三人とは違い、ホウプは一人表情を引き攣らせていた。
男の一人が苛ついたように近づいてくる。
「いいかテメェ等、俺はなぁ大人しくしろって言…!」
ごきんっと嫌な音が響いた。
団長の拳がホウプの頭上を通過して、近づいてきた男の顔面にめりこんでいた。
男は鼻血を撒き散らしながら、床に突っ伏す。
「うるせぇんだよ、黙れ。今回はデルタ帝國軍支部に侵入すんぞ。普通ならこんな人数は目立つだけだろうが、後々のことも考えてデルタの野郎共の技術力を知った方がいい」
「あらあら、大変そうね。ちゃんと遺書書いてきた?副隊長さん」
エイプリルがほんわかと周りに花を飛ばす。その花にあてられて、副隊長は胃を押さえて悶えた。
強盗は床に突っ伏してしまった仲間の男を見て、一瞬愕然としていたが、慌てて拳銃を突き付ける。
その照準がホウプを捉えた瞬間、男の腕に穴が空いた。
痛みに喚く男を見遣り、副隊長は握っていた拳銃の引き金から指を離した。
「やっぱりあの性悪神父が寄越した切符なんて使わない方がよかった……」
「でも、そのおかげで私と旅が出来てるでしょ」
きゅっとエイプリルに引っ付かれ、副隊長は奇声を発して片腕をばたばたとさせた。
銃声を聞き付けたのか、仲間の強盗達が四人のいる車両に集まってくる。
「オイ、何があっ…ぐあっ!?」
拳銃を構えて駆け付けた男達は、皆両腕と両足に一発ずつ銃弾を喰らって倒れ伏した。
呻く男達を静かに見ていた乗客達は、皆近くにいた強盗達に飛び掛かり始めた。
流石、犯罪大国。生きているうちに5回は事件に巻き込まれる国だ。皆、犯罪慣れしている。
特におばちゃんは、大根で若い強盗をぶん殴るなど勇気に溢れている。
次々と倒されていく男達を見ながら、ホウプは、ぽつりと言葉を零す。
「……この国の人達は、みんな強いですよね」
特に目の前にいる三人は。
言いかけた言葉を飲み込み、もうすぐ着くであろう辺境の地を思った。