‡ZERO‡

Act.7 朱雀、覚醒
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騒ぎに巻き込まれないうちに汽車をおり、四人は最寄にあった店で陽射し避けのマントを買った。
胸元にある釦をとめ、フードをかぶれば砂漠越えには丁度いい。
先の戦争は、僅かな砂漠を挟んだ隣国ミッドレイとの領土争いで勃発した。
僅かな砂漠はココラヘン砂漠の末端だ。
ココラヘン砂漠を越えた場所には貿易の王国、カリー王国が存在している。
戦争をなんとか引き分け、冷戦状態に持ち込めたのもカリー王国がこちらの国に加勢してくれたおかげだ。
ホウプは、カリー王国があるであろう方向を向いてそこにいた王子を思いやった。
団長と二人で訪れたカリー王国は、カレーしか食べられない国だった。ホウプは王子と仲良くなり、なんとか他の食べ物のおいしさを知ってもらったのだが…。
事の顛末を知る前に、逃げるようにカリー王国を後にしたのでどうなったのかは分からずじまいだ。
いつか、ちゃんと会いに行かなきゃ。と思考に耽るホウプを、団長が怒鳴るように呼んだ。
デルタ帝國軍の支部は戦争のあった末端の砂漠にあるはずだ。
早くいかなければ日が暮れてしまう。
水を確保し、四人は砂漠へ向けて歩きだした。
砂漠越えの不法入国だ。どちらの国にも属していない場所だが、不法入国だと騒がれても文句は言えない。だから、出来るだけ迅速に行動しなければならない。
砂を踏む度、ざりざりとした感触が靴底を通して伝わる。
じりじりと照り付ける太陽が砂を焼き、上からも下からも熱に挟まれている。
暑い。
ホウプはうだるような暑さに体力が奪い取られていくのを感じ、小さく唸る。
すると突如影が差し、ホウプがゆっくりと顔をあげるとそこには副隊長がいた。


「隊長、俺の影に入って歩いてください。少しは涼しいはずですから」

「あ…ありがとうございます…」


副隊長の優しさに感激していると、後ろから団長に蹴り上げられた。
さっさと歩けといいたいのだろう。
しかし、前を歩かず後ろにいるのを見るかぎり、どうやら誰かが倒れてもいいように後ろにいてくれているらしい。
倒れるのは高い確率で僕なんだろうなあ。と思い、ホウプは団長に向けて御礼を言おうかと思ったが止めておいた。
多分、団長はそれを否定するだろうから。
頑張って足を引っ張らないようにしようと、ホウプは気合いを入れ直した。
やがて日が傾き、辺りが僅かにほの暗くなった頃目的の場所についた。
砂漠を渡り切った場所にある辺境の地。
靴底の感触が固くなり、視界が岩肌ばかりの黒に変わる。
草木一本生えないその場所は戦争の爪痕を色濃く残していた。
その風景の中で人工的に作られた場所を見つけ、四人は歩みを進めた。
大地がえぐれ、剥き出しの岩肌が聳えている。
だが、そこに建物の姿はない。


「オイ、ガキ。何もねぇじゃねぇか」

「多分、魔術で見えないようにしてるんですよ。invisibilityってやつですね」


ホウプはクレーターのようなそこを見やり、大体の大きさをはかる。
それを頭にいれた上で、ホウプは紙を取り出し呪文を紡いだ。


「我はデルタ帝國の叡智を継ぎし者なり。開け、我が安寧の地よ」


魔術陣が描かれた紙から光が溢れだし、クレーターを光が包んだ。
ぱしゅんと光が弾けると、何もなかったそこに建物が現れていた。
四人は岩をずりずりと滑り降り、平地へと足をつけた。
周りを囲うように聳える岩を見上げていると、まるで此処が岩に守られた要塞のように感じてしまう。
ホウプは、かぶっていたフードをぱさりと払った。はらりと銀髪がフードから零れ出て、一瞬金色に輝いた。


「えーと、多分入口はここですね」

「うーん、俺にはただの壁にしか見えませんが…」


ホウプがぺたぺたと触れる壁を見て、副隊長は不思議そうに首を捻った。
しかし、次の瞬間壁から光が溢れ、入口が顔を覗かせた。
四人は警戒しつつ、中へと入っていく。
主電源が切れているのか辺りは薄暗かったが、なんとか前には進めるようだ。
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