‡ZERO‡

Act.8 白夜を撃て
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輝く太陽。白い砂浜。唸るムサイ筋肉男達。翻る人面魚。
平和なことこの上ない。
ホウプは、陽射し避けの帽子を目深に被り、それを見遣っていた。
ふわふわと背中で風をうけ靡く羽。砂が入ったら手入れが大変なんじゃないだろうか。なんて考える余裕すらある。
しかし、砂浜に座っている以上、それは致し方ないこととして諦めなければならない。
ZEROから程近くにあるこの砂浜は、食糧調達にうってつけの場所だ。まぁ、ここに来るためには道なき道を通り、死ぬような思いをしなければならないのだが。
顔をあげれば、ZEROの建物が見える。今頃、団長は踏ん反り返って酒をかっくらっているのだろう。
団員達に呼ばれ、ホウプは目線を海へと戻した。
海の中で、団員達が海の動物達と死闘を繰り広げている。「これは?これ、食える?」と逐一聞いてくる団員達が可愛くて、ホウプはへにゃりと笑みを零した。
人面魚を筆頭とする変な魚達が、次々と浜辺に積み上げられていく。
そんな中、空気をつんざくような悲鳴が辺りに響き渡る。見れば、沖まで出ていた団員が、現れた巨大蛸に襲われていた。
巨大蛸はこの海で1、2を争うほど危険な動物だ。
ホウプは、ぱしゃぱしゃと水を蹴り、早口に呪文を唱えた。


「我が叡知の前に平服せよ。吹き荒れろ疾風!」


言葉が世界の力に姿を与え、具現化する。
覚醒してからというもの魔力が格段にあがり、底なしのように溢れ出してくる。
「世界」と一体となるように、魔術が使えるのだ。そのため、魔術陣も必要なくなった。
だが…。
風が吹きすさび、巨大蛸を粉々に切り刻んでしまった。
膨大すぎる力が思ったように制御できないのだ。
人間ではないと突き付けられているようで、少なからずまた落ち込む。
ホウプは溜息を漏らし、襲われていた団員に声をかけた。


「大丈夫でしたか?」

「隊長……」


団員がゆっくりと顔を上げる。
やっぱり、今のは駄目だったのだろう。と後悔する。あんな力を見せてしまった。
知らず顔を伏せるホウプの口に、何かがぽんっと飛び込んできた。
びっくりして目を見開き、思わず何かを噛みしめた。
蛸、だ。
団員は嬉しそうに「うまいっすよ、コレ!」と笑った。
ああ、また暗くなってしまった。と、団員の顔を見ながら思う。最近、情緒不安定気味だ。いきなり神様だなんだ言われ実感すらないまま、じわじわと身体を蝕む人間らしからぬ力に落ち込む。
けれど、自分以上に自分を受け入れてくれる周りの皆のおかげで腐らずにいられるのだ。
ホウプは、へにゃっと情けなく笑い、思わず目の前の団員の頭を撫でた。


「ありがとうございます」


訳がわからないという風な団員の頭を再度撫でて、ホウプは海に散らばった蛸の残骸を拾い集めた。
気がつけば太陽も傾き始めている。
そろそろ帰ろうと誰かが声をあげ、みな食糧を手にぞろぞろと歩き始めた。
今晩何にしようと呟けば、幾つも手があがり、沢山の料理の名前が飛び出してくる。
出来るだけ要望に応えようと考える自分が、まるで、親になったように感じられ、ホウプは知らず顔を緩ませた。
幾つもの料理名を聞きながら、漸くZEROに着いた頃にはすでに太陽は隠れてしまっていた。
古臭い門を潜り、建物へと足を踏み入れた瞬間、寒気が背筋を走った。しかし、いくら見渡せど何かが変わっているというわけでもない。
気のせいかと結論づけ、ホウプは団員達を引き連れていそいそと台所に食糧を置いた。
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