‡ZERO‡

Act.8 白夜を撃て
3ページ/15ページ


「今日は食材沢山ありますから、沢山料理つくれますねー」


上機嫌でホウプは並べられた食材を一つ掴み、調理場に持って行く。
包丁を取り出した瞬間、ぶわりと後ろで殺気が爆ぜるのを感じた。
ぞくっと身体が悸くや否や、ホウプは持っていた包丁を後ろにいる何者かの首筋に突き付ける。しかし、その刃はびくりと震えて揺らいだ。


「え……?」


禍々しい殺気は団員達のものだった。
その手が伸びるのを見ても反応できないほど、ホウプは呆然と立ち尽くした。
カツンッと音を立てて包丁が落ちた。
調理場に引き据えられ、首を絞められる。躊躇のない行動に眩暈がした。
少なくなる酸素を使い、魔術を使役しようと思い、すぐに止めた。団員達が怪我をしてしまう。
霞む視界では団員達の顔すらよく見えない。
げほっとむせながら、ホウプは絶望を映した目で自分の首を絞める団員を見遣った。


「ど、して……?」

「だって、アンタは、化物じゃないですか」


額に突き付けられた銃口が酷く現実離れして見える。
今、右手で銃を取り出せば助かるかもしれない。しかし、それを実行しようとする気はなかった。
今更どんな言葉を言われようと、それを上回る愛しさしか感じられない。彼らを傷つけるぐらいなら、彼らが望んだ結末を選ぶ。
ごめんねと小さく紡ぐと、首を絞める手が僅かに緩み、視界が少しだけはっきりする。
見えた景色の中、団員達は、泣いていた。


「ッ……!」


咄嗟に羽を大きく広げ、団員を振り払う。
げほげほと激しくむせながら、ホウプは足に力を入れ、なんとか立ち上がった。
違う。と思った。
団員達は本当に悲痛な顔をしていた。
見ているこちらが痛々しくなるほど、こんなの本心ではないと訴えかけられているようで、一瞬でも死んでもいいと考えた自分が許せなかった。
親に見捨てられたような、そんな表情に弱いこと知っているのに、そんな顔で見つめながら、殺そうと手を伸ばしてくる団員に向かって、ホウプはゆっくりと笑みを浮かべた。
大丈夫だとそう伝えるように。
伸びてきた手を掴み、悪いと思いながらもみぞうちを蹴りあげる。
呻く団員に謝罪しながら、その隙に調理場から転がり出た。
拳銃の弾を確認し、階段を駆け上がる。
団長に伝えようと足は自然と早くなるが、途中で副隊長を見つけ、足は止まった。
声をかけるべきかどうか躊躇する。彼は、大丈夫だろうか。
しかし、予想に反し、こちらを見た副隊長はきょとんとしながら首を傾げた。


「そんなに急いでどうしたんですか、隊長」

「副、隊長さん…。ですよね?」

「え、あ、そうですけどってまさか隊長!熱があって意識が朦朧としてるわけじゃないですよね!?大丈夫なんですよね!?」


肩を掴まれ、がくがくと前後に揺すられる。
間違いなく、副隊長だ。
団員達みたいに泣きながら首を絞めるような表情と行動の不一致はない。
ホウプは安堵で大きく息を吐き出した。
状況を説明したいが悠長に話している暇はない。


「うーん、なんていうか結構緊急事態で…」


口を開いた途端、後ろから雄叫びと共に団員達が迫ってきた。
あからさまな殺気に副隊長は目を見開き、次の瞬間目を細めた。
「ああ、なんとなく分かりました…」とつぶやく副隊長の腕を引っ張り、ホウプは階段を駆け登った。
副隊長は階段を駆け登りながら、時折後ろへ向かって銃弾を放つ。
当たるか当たらないかのギリギリを狙っているというのに、団員達は全くひるまない。
それを見て、副隊長はため息をついた。


「完璧にイってますね、アレは…」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ