‡ZERO‡

Act.8 白夜を撃て
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自らの命すら投げ出す勢いだ。
冗談じゃないとばかりに、副隊長は顔をしかめる。
足音を響かせながら階段を駆け上がる途中、突如床が一部分だけぽっかりと抜けた。ホウプは、それに足をとられ、前のめりになりながらもなんとか持ちこたえた。
慌てて後ろを振り返ってみれば、抜けた部分から丸くて白い何かが顔を覗かせる。


「うるせーな、何の騒ぎだ」

「ハンプティーさんっ!」


ホウプが慌てたように名前を叫ぶと、ハンプティーはゆっくりと二人を見遣った。


「あ?坊主に若造。何かあったのか?」

「今ここで悠長に説明してる暇なんてないんだッ!隊長、許可願います!」

「うぇぇ!分かりました!総員、地下に退避!今から地下はZERO奪還部隊本部とします!」


ZEROの地下は無駄に入り組んでいて、下手に入れば迷ってしまう。そのため、そのほとんどは解明されないままだ。
しかし、地下はどういう構造になっているのか、無数の近道がある。
ホウプもハンプティーに少しだけ教えてもらったが、地下の暗い道を一人で歩く勇気がなく使用したことはない。だが、今この状況で地下はうってつけの機動力となる。
ZEROの地下はハンプティーの領域だ。研究を邪魔されたくないというハンプティーのために、滅多なことがないかぎり地下を使用しないようにと通達を出したのはホウプだ。といっても地下を使う人なんてそうそうはいなかったが。
だが、地下の使用権限を通達を出したホウプが誰よりも地下の権限をもっている。だからこそ、副隊長はホウプに許可を求めた。
ホウプは、地下使用を許可しながらもハンプティーをじっと見つめる。嫌だったら断ってもいいと、青色の双眸がありありと物語っていた。
ハンプティーは、大きくため息を吐き、ゆっくりとホウプを見据えた。


「ったく、坊主にはかなわねぇな。協力するから、早く来い」

「あ…ありがとうございます!」

「隊長、早く!」


ハンプティーが外した床に、二人はするりと身をくぐらせた。
二人が地下に転がり込んだ瞬間、ハンプティーは外していた床を嵌め込む。足音が遠ざかっていき、ホウプと副隊長は安堵の息を吐いた。
ハンプティーが燈した明かりを頼りに、狭い通路を抜け、ひらけた場所に出る。
出来ればそこで一旦腰を落ち着けたいが、そういう訳にもいかない。


「どうすんだ坊主。奴さんの影も形も分かんねぇんじゃ打つ手がねぇ」

「そうなんですよね。取り敢えず、あっちの動きが掴めなきゃ下手に行動できませんし……」


何か思案するようにじっと動きをとめていたホウプは、やがてゆるゆると瞼を押し上げた。
張り詰める殺気。
じっとりと掌に汗が滲む。
ああ、最悪だとホウプは小さく呟いた。
拳銃を突き付けると同時に、額に冷たい感触。


「……はは、おっしい!もう少しだったのにさぁ!」


けらけらとぞっとするような笑みで副隊長は笑う。耳障りなほど笑い声がこだまし、恐怖を煽った。
ハンプティーが舌打ちを零しながら、副隊長に殴り掛かり、拳銃の照準をホウプから反らす。
その瞬間、ホウプは地下を照らす明かりを撃ち壊した。真っ暗な闇の中で、ホウプは傍らに立つハンプティーを引っ張り、とにかく走った。
足音がやけに大きく響く。暗闇のせいで方向感覚が危うい。焦燥ばかりがつのっていく。
荒く地面を蹴り飛ばしながら、ホウプは後ろから聞こえる笑い声から逃げる。


「あの若造が坊主に銃向けるなんざ考えたこともねぇな。中々肝が冷えたぜ」

「しょうがないですよ、操られてるんですから」


そう言いながらも、ホウプは冷や汗が滲むのを隠しきれなかった。あの瞬間、本気で殺されると思った。身内から突き付けられた銃口の冷たさに、喉が引き攣りそうだった。
明確な殺意に曝され、身体が震え、傍にハンプティーがいなければ倒れてしまっていただろう。
敵は副隊長に深く寄生している可能性が高い。副隊長には団員達に感じた、表情と行動の差異がなかった。
取り敢えず、一度体制を立て直した方が良い。ハンプティーまで操られてしまったら勝機は少ない。
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