‡ZERO‡

Act.12 天使は二度笑う
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気持ちのいい晴れ空だ。洗濯物日和とはこのことだろう。空気も湿気を含んでおらず、からっとしている。
抑えきれなかった欠伸を漏らし、洗濯物を吊るしていると、シエルザードが横から手伝ってくれた。
ありがとうと言うと、彼は本当に嬉しそうに笑う。いつもは無表情な彼だけど、そういうふうに笑っている方が似合う。嬉しくてたまらないという笑顔を見ていると、こちらまでその嬉しさが伝染してくるようだった。
先程から、団員達がこちらを見ながらそわそわしている。しかし、視線が合うとぱっと顔を反らしてしまう。
彼等は、まだ計画を続行中らしい。しかし、いつもの癖でつい手助けをしてしまうようだ。
この間、盛大にすっころんでしまった時、周りにいた団員達や副隊長が大慌てになりながら手当てしてくれたことは記憶に新しい。もうそこまでしてしまっているのだから、普段通りにすればいいのに意地になっているのだろう。
ホウプは、苦笑いをこぼした。実は先日の真夜中『隊長にきらわれよう計画』を話し合っている場面を見てしまった。みんなで意見を出しあい、隊長に嫌われても泣かない。隊長に嫌われても普段通りに過ごす。等いろんな意見が出ていた。しかし、みんな泣いていた。
その場面を見てしまった時、色々苦しくなってしまった。正直、今すぐ飛び出してみんなを抱き締めたくなった。成る程、胸が苦しくなるほどの喜びとはこういうことかと知った。好かれていると言うのが直球で伝わってきてしまった。ああ、もうみんなの親になりたいと真夜中に一人、扉の前で悶絶してしまった。
親バカでも身内バカでもなんとでも言え。この人達可愛すぎる。

「朱雀様。ご機嫌ですね」

「え」

そんなにニヤけ面だったのだろうかと、ホウプは顔をおさえた。口角があがり、眉がさがっていた。所謂、だらしのない顔になっていたらしい。
うわぁ、恥ずかしい。死にたい。と、一人沸騰する頭を冷やすべく、洗濯物に集中する。
立ち去れ、煩悩。ぱんっと洗濯をシワを伸ばした。駄目だ。煩悩に殺される。頭が沸騰しすぎて痛い。

「すいません。ちょっと頭冷やしてきます」

シエルザードにそう言えば、にこりと笑みを返された。ホウプは、顔をおさえながらよろよろと自室へと向かう。
その背中が見えなくなると、シエルザードは洗濯物を干す作業に戻った。しかし、周りに集まってきた団員達の熱気におされ、シエルザードの手はすぐに止まってしまう。
団員達は、少しだけ照れ臭そうに頭をかくとゆっくりと口を開いた。

「あのよ、シェルさんだっけか。隊長のこと頼むな」

「俺達が守れない分、あんたが守ってやってくれ」

団員達は、口々にそう言うとしっかりと青年を見据えた。
彼等は、神ではなく一人の大切な仲間として少年を守ろうとしている。その信頼と愛情を知り、シエルザードはゆっくりと笑みをこぼした。
自分が知っている彼はいつも一人だった。悩みも嘆きも悲しみも業も、全て一人で背負っていた。それは彼が神である所以であったが、その背に背負う重荷を一緒に背負うことはできないのだろうかと嘆いたものだ。しかし、今彼には仲間がいて、共に重荷を背負い、前に進んでいる。
余程、目の前の彼等が大切で、信頼しているのだろう。
シエルザードは、彼等にこたえるべく、出来るだけ優しげな笑みを浮かべた。

「勿論。朱雀様を守ることが、私の役割ですから」
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