‡ZERO‡

Act.1 『お金がない!?』
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そんな場合じゃないんです!
中性的で華奢な少年は、日記帳を地面に落とした。少年の心境など露ほども知らぬ風が、銀色の髪を撫で、闇色の外套を舞い上げる。しかし、柔らかな風に和んでいる暇などない。
慌てて切り立った崖まで駆けより、そして少年は絶句した。
仕事場兼自宅が瓦礫と化している。


「えぇぇッ!?」


あまりの事に思わず叫んだ。ここが人里離れた辺境な場所でなければ、間違いなく苦情になるような声で。
ただの破片と化した家を見て、くらりと眩暈がする。頭を抱える寸前、世界が急速に落ちた。真っ青な海が両手を広げて待っている。悲鳴をあげる暇すらない。華奢な少年の身体は海にたたき付けられ、無惨にも海の藻屑となる。そのハズだった。
切り立った崖の中ほどに、削りとられたような窪みがあり、そこには仕事場の跡地と残骸が鎮座している。その周りには呆然と残骸を眺めている、少年と同じ外套を纏った屈強な男達がいた。
その集団の中にいた茶髪の男は、落ちる少年に気が付いた途端くわっと血相を変え、人間とは思えないような速さで地を駆ける。男が少年を受け止めるために差し出した手に、少年は、ぽすんと軽い音をたてておさまった。


「隊長!大丈夫ですか!?」


隊長と呼ばれた少年、ホウプは、恐怖に引き攣った空を嵌め込んだような青の双眸に男を映した途端、じわりと瞳に涙を浮かべた。


「副隊長さん…」


ホウプは、副隊長と呼んだ平凡で薄幸そうな顔をした男にしがみつく。
その様子を視界にとらえた、屈強な男達がうわぁあと叫び声を漏らしながら集まってきた。


「うわぁあ!隊長、俺ら悪くないっス!泣かないでください、隊長!」

「隊長!!書類が瓦礫の下敷きにっ!」


大の男が、わぁわぁと騒ぎ立てる。
副隊長は、そんな団員達を無視して、ホウプをぎゅうっと抱きしめた。


「大丈夫ですよ、隊長!隊長は俺が守りますからっ!」


副隊長のちくちくした髪が顔を擦り、ホウプは思わず、ふみゅうと呻き声を漏らす。あまりにも強い力で抱きしめられ、息苦しさに暴れるが、副隊長は気が付いていないのか、余計にホウプを抱きしめる力を強くした。
落下での死は免れたが、このままでは間違いなく窒素死する。急速に光が失せていくのを感じた。
その時、ホウプの双眸に映ったのは、黒革の手袋をはめた華奢な指が、副隊長の服の襟を掴む光景だった。


「うわっ!?」

「ふわっ!!」
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