‡ZERO‡

Act.1 『お金がない!?』
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副隊長はその指に引っ張られ、後ろへと転倒した。その衝撃で、思わずホウプを離してしまう。
周りにいた男達が、皆揃ってホウプを受け止める。それとは反対に、副隊長は受け身をとりつつもやはり痛かったらしく痛みに呻いた。


「駄目よ、副隊長さん。貴方図体だけは立派なんだから」


凛としつつも甘い響を持たせたような声が響いた。
その声を聞いた途端、副隊長はみるみる顔を青ざめさせて小さく悲鳴を上げる。
声がした方にいるのは、ダークブロンド色の髪の容姿端麗な女性。思わず目をそらしてしまうような短いスカートからは、彼女の身体のしなやかさをあらわすように、すらっとした足が覗いていた。


「え、エイプリルさん」


副隊長が震えた声で女性の名前を呟き、壊れたおもちゃのようにガタガタと身体を震わせる。少しずつ、エイプリルから離れようとするが、エイプリルの甘い笑顔を見た途端、ビシッと固まった。


「副隊長さん。早くあの瓦礫の中から胃薬を探した方がいいんじゃない?」


胃がキリキリとよじれそうなぐらい痛む。副隊長は、この仕事場に来てから発病した胃潰瘍が悪化するのを如実に感じてしまう。
ホウプは男達にしがみついたままの手を離し、たしっと音を立てて地面を踏み締めた。
削り取られたような岸壁の窪みには、ZERO本拠地であった建物が無残に鎮座している。
ZERO、正式にはZEROの団。闇にとけるような漆黒の色のコート、十字架があしらわれた団服。暗殺などの仕事を主としつおり、裏の世界も表の世界も、この名前を知らない者がいないほど、大規模な団だったのだ。
しかし、それは全て昔の話。今は貧困極小団体でしかない。それこそ、今日の夕飯に困るほど。
ホウプは、ある一点で目を止め、たたっと小走りでそこまで向かった。


「団長!!」
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