‡ZERO‡

Act.2 Play the Clown
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久々に訪れたセイクレッドは、昔と変わらぬ風景で迎えてくれた。
太陽の光を浴びる街路樹達。穏やかな商人と、住人達の会話。軒に並べられた不揃いな林檎達。
町の真ん中で飛沫を上げる噴水も、白壁の町並みも、何一つくすんでいない。
どこかのんびりとした空気に影響され、ホウプは、思わず欠伸を零す。目尻にたまった涙を拭い、周りの視線を気にせず町の奥へと進んでいく。
視線を集めるのは仕方がない事だ。白に覆われたこの町に、黒の染みが出来たようなものなのだから。
暖かな陽射しに、この黒い団服は不似合いだ。
暗い街は、本当に黒が似合う。この暗闇のような黒の団服を馴染ませる。
人々の思いが街の色を決めるのだ。
昔、自分がいた街は間違いなく、くすんだ色をしていただろう。あの街は、あの人々は……。


「ッ………!!」


無意識に眉間に皺がよる。
壊れかけたブリキのような住人。狂ったように踊り狂う裏路地はまるで、殺戮舞踏会。
暗い街の中、愛を求めさまよう子供達は、飢えをしのぐためその手を赤く染める。
隣の扉が叩かれれば、もう隣人はそこにはいない。
紅い色はワインの色。緋い色は血の色。
嘲り笑う貴族達は、王座にはいない。
ホウプは、過ぎった残像を消し去るように頭振った。


「お父さん………」


その中での唯一の光は、間違いなく彼だった。
数秒瞼を閉じれば、次に差し込むのは太陽の光。
今、自分がいる世界は間違いなく明るいのだろう。ZEROという世界の日だまりは、優しく、ぬるま湯のように甘い。それが心地いい。
自分がしなければならない事を忘れそうなほど。


「…………?」


やらなければいけない事などあっただろうか。身近な事ではなく、もっと重大な何かが思い出せない。


「って……!!アレ、行き過ぎたです!!」


考え事をしていたせいで、教会を通り過ぎてしまった。
後方に見える教会まで慌てて戻る。
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