‡ZERO‡

Act.3 生き残れ、食糧争奪戦
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はぁっと重苦しい溜息が部屋に落とされた。
ZEROの団、隊長であるホウプは、家計簿を片手に机に突っ伏した。彼が所属しているZEROの団は経済力が非常に芳しくない。寧ろ日に日に募る借金に、赤字がふくらむばかりだ。
ちろりと、台所の端に置いてある唯一の食糧を見遣る。申し訳なさそうに置かれた大根と人参の破片が、じっとこちらを見ている。居心地の悪さに、ホウプは慌てて家計簿に視線を落とした。
虚しい、ひもじい。
ぐぎゅうっと腹の虫が空腹を訴えてくるが、生憎水ぐらいしかない。よろよろと立ち上がり、水をコップに注いで飲み干した。
はぁ。と、やはり溜息が漏れる。


「……寝よう」


考えていても始まらない。
明日は卵の特売日だ。とにかく、それに備えて寝ようと、ホウプはランプの火を消して立ち上がった。
暗い廊下に足音が響く。
さて、どうやって少ないお金でZEROの団員達を養うかが問題だ。
最近、海で捕れる人面魚やクラーケンと死闘を繰り広げて、漸く夕食にありつけている。いい加減、そんな生活を終わりにしてあげたい。疲労と空腹で団員達は廃人寸前だ。
なんとかならないものかと、ずっと思考に耽っていたせいで近づいてくる人影に気がつかなかった。
廊下の曲がり角で誰かとドンッとぶつかり、ホウプは慌てて顔を跳ね上げた。


「うわ……っ!すみません!」

「まだ起きてやがんのか、クソガキ」


暗闇の中で、団長が仁王立ちしていた。彼が巨体なので、小柄なホウプは必死に首をあげて漸く団長の顔を視認する。


「後片付けしてたんですよ」


そう言うと、団長はさして気にも留めないようにホウプの横を通り過ぎていった。
きっと今日も博打だろう。その後ろ姿は決して振り向く事がない。
窓から見える空は、もう白んできている。もうすぐ夜明けだろう。闇の底から、光が溢れてきている。
何回目か分からない溜息を吐き出した途端、団長が好んで吸う煙草の臭いが鼻をついた。








小鳥の囀りに揺り起こされる。
呻きながらゆっくりと瞼を押し上げた。朝日が目を差す。もう朝だと確認する前に、ホウプはガバッと起き上がった。
もう太陽は空でさんさんと輝いている。今日は卵の特売日だというのに、寝過ごした。
身支度もそこそこに、掛けてあった団服を羽織る。どたどたと騒がしく足音を立てながら、ホウプはZEROから飛び出した。
だが、目の前に立ち塞がるは断崖。ここを登らなければ、街へは行けない。ぜぇぜぇと喘ぎながら、断崖にへばり付くように登っていく。


「ッ、ま…負けませんよ…!!全ては、今日の晩御飯のためです!!」


漸く断崖を登りきり、寝転がって大きく息をする。空が蒼い。
ぷはぁっと息を吐き出しながら、起き上がり駆け出す。
街に向かって、真っ直ぐに。




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